神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

さて、チョコマドレーヌのお陰で、落ち着いてくれたのは良かったが…。

「ね、美味しいでしょう?食べたら元気が出るでしょう?さすがチョコの力!誰でもチョコを食べれば、元気がでっ、いたっ!」

俺はもう一度、シルナのつま先を踏みつけてやった。

今それどころじゃねぇだろ。

「うぅぅ…。私のつま先が〜…」

「良いから。それよりツキナの話を聞くのが先だろ」

「はっ!そうだったね」

ようやく我に返るシルナ。

「ツキナちゃん。一体どうしたの?さっき、なんで泣いてたの?」

「…それは…だって…」

「私で良ければ、いつでも、何でも力になるから!教えてくれる?」

「…」

ツキナは、悲しげな表情で俯き。

そして。

「…大根が…」

と、呟いた。

やっぱり大根なんだ。

「大根が…いっぱい出来て、収穫する時期なのに…」

「へっ?だ、大根…?」

「一緒に収穫してくれる人が、誰もいないんです」

ツキナは涙目で、そう訴えた。

…えぇっと…。

「すぐり君も、令月君もいないし…。それに、ナジュ先生も…」

「…」

「折角みんなで育てたのに。折角大きな大根がいっぱい出来たのに。私…一人で収穫しなきゃいけなくて…」

「…」

「みんなで食べる約束、してたのに…。私一人じゃ、全部食べられないよ…」

「…そうか…」

…それは悲しいな。

ツキナが泣いてた理由、ようやく分かった。

そりゃ「大根」を連呼しながら泣き喚く訳だよ。

令月、すぐり、見てるか?

お前らがいないせいで、こんなに泣いてる子がいるんだぞ。

一緒に大根を収穫して、一緒に食べようと約束していた子が。

「帰ってくるまで待とうと思ってたけど、でも、このままじゃ…帰ってくる前に、大根が駄目になっちゃう…」

「…そうだな…」

「学院長先生、羽久先生、私、どうしたら良いですか…?」

「…」

今すぐ、令月とすぐりを…そしてなナジュを、ジャマ王国に取り返しに行きたかった。

間違いなく、それが一番良い方法だ。

…だけど…。…事態は、そんなに簡単ではない。

ツキナに…何とか元気を出してもらう為には…。

…よし。

「シルナ、俺達が…」

「それじゃツキナちゃん、私と羽久が手伝ってあげるよ!」

俺が提案しようとしていたのと、同じことをシルナも考えていたようだ。

「えっ…?」

「大根の収穫だね!任せて!私が手伝うから。ねっ、羽久」

「あぁ」

俺も、そのつもりだった。

俺とシルナじゃ、令月達の代わりにはならない。それは分かっている。

だけど、今、ツキナの悲しみを少しでも慰める為には…こうするしかなかった。

その為に骨を折るなら、それは苦労でも何でもない。

「本当ですか…?ありがとうございます!」

さっきまでベソをかいていたツキナの顔に、ようやく笑顔が広がった。

よし。

「じゃあ、早速畑に来てください!」

い、今すぐか?

いや、良い。善は急げだ。

「よし、シルナ。行くぞ」

「う、うん」

にわか園芸部員の誕生である。




…この時俺は、ツキナ達の園芸部を舐めていたのかもしれない。