神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「ひぇっ」

心臓がアリンコサイズのシルナは、飛び上がって驚いていたが。

あまりに突然のことで、俺も思わずびっくりしてしまった。

な、なんだ?

「だいこんっ…。だいこん〜っ!!」

なおもその生徒は泣きながら、何かを訴えていた。

だ…ダイコン…?

それよりこの女子生徒、物凄く見覚えが…。

「つ…つ、ツキナちゃん!?どうしたの…!?」

シルナは女子生徒に駆け寄って、声をかけた。

そう。ツキナだ。

令月とすぐりが所属している、園芸部の部長…ツキナ・クロストレイ。

そのツキナが、学院長室に飛び込んで泣いている。

…「大根」と言いながら。

「だいこん、だいこん、だいこん〜っ!!」

大根を連発しながら、なおも泣きじゃくっている。

女子生徒が泣いてるんだぞ。こんなにも大声を上げて。

これはただごとではない、それだけはよく分かる。

…分かるんだけど。

「…何?大根って…」

「だいこんーっ!!」

…ごめん。なんか、凄くピンチであろうことは、確かなんだろう。

でも、ひたすら「大根」だけ連呼されても。

俺としては、状況が分からないって言うか…。

…正直言って、意味不明。

大根って、俺達が知ってる、あの野菜の大根のことで合ってるよな?

すりおろしたり、煮たり、焼いたりして食べる、あの白い冬野菜…。

他に「だいこん」なんて言葉、ないよな?…多分。

「うわーん!だいこんーっ!」

「…」

…頼むから。誰か。

ツキナがなんで泣いてるのか、通訳してくれ。

あぁ、こんな時ナジュがいてくれたら…。

だが、無い物ねだりしている場合ではなかった。

「落ち着け、ツキナ。頼むから」

俺は、出来るだけ優しい声でツキナを宥めた。

「大丈夫だ。話を聞いてやるから…。だから、ひとまず泣き止んでくれ」

目の前でこうも、大声あげて泣かれると…俺としても非常に気まずい。

「ほらシルナ、お前も」

「あっ…そ、そうだよね」

シルナにも宥めてもらおうと、俺はシルナを促した。

するとシルナは、今しがた自分が食べようとしていたチョコマドレーヌを、一つ取り。

それを、ツキナに差し出した。

「ほらっ、ツキナちゃん。チョコマドレーヌあげる!」

…お菓子で慰めろ、とは言ってねぇよ。

「ひっく、ひっく…。ま…まどれーぬ…?」

「そうだよ。美味しいよーこれ。大根より美味し、いたっ!」

俺は、シルナの爪先を踏みつけた。

大根に失礼だろ。馬鹿。

「え、えぇと…だ…大根に負けないくらい美味しいよ!」
 
と、言い直した。

まぁそれなら良いだろう。

「さぁさぁ食べてみて。元気が出るよー」

猫なで声で、シルナがそう言うと。

ツキナは、おもむろにチョコマドレーヌを受け取り。

「…はむ」

食べてる。

よし。それで良い。

もぐもぐもぐ、とチョコマドレーヌを頬張る。

「ど…どう?美味しい?」

「…はい」

「良かった〜」

本当に良かった。

お陰で、ツキナの涙もいつの間にか止まったようだ。