神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「お願いします…!お願いだから…見逃して…」

「…」

ターゲットの女性は、震えながらも、決して娘を離したりはしなかった。

娘の方も、怯えながら母親にしがみついていた。

相変わらず、その小さな女の子が…ツキナの姿と重なって見えていた。

考える必要なんてなかった。

だって、この人は彼女は暗殺のターゲットなのだから。

俺がすべきことは、ターゲットの命乞いに耳を傾けることではない。

問答無用で、彼女の首を切り落とし。

そして、目撃者である彼女の娘も、ついでに殺す…。

実にシンプルで、俺にとってはとても簡単なことだった。

これまでも、ずっとやってきたことだった。

何の問題もない。暗殺対象の命乞いなんて、聞くに値しない…。

…はずなのに。

「…分かった」

「えっ…?」

俺は、両手から伸ばした糸をしゅるしゅると引っ込めた。

『アメノミコト』の脅威にならないなら、殺す必要はない。

脅威にならない、つまり殺すことに意味はないのだ。

殺す必要のない相手を殺せば、それはただの殺人鬼だ。

俺は暗殺者ではあっても、殺人鬼ではない。

理由なく、人を殺すような真似はしない。

「でも、これから先何があっても、絶対に非合法の仕事には手を出さないで。お願いだから」

そんなことされたら、見逃した意味がない。

その時は、改めてあんたを殺さなきゃいけなくなってしまう。

「は、はい…!もちろんです。約束します…!」

その場しのぎではなく、彼女は本気で、そう答えた。

貧乏でも真っ当な仕事をして、真っ当に娘を育てたい。

その強い意志が、彼女からは感じられた。

良いね。羨ましいよ。

この荒んだ国で、そんな高潔な子育てをする人なんて、滅多にいないよ。

「それと、出来ればこの町からは引っ越した方が良いよ」

「え…?」

「『アメノミコト』に目をつけられてるから。しばらくは田舎にでも引っ込んで、隠れてた方が良い」

「は…はい」

そうすれば、ひとまずは安心だろう。

「それじゃー、俺は帰るよ」

「あ…ありがとうございます。ありがとうございます…!」

やめてよ。俺、君を殺しに来たんだよ?

罵られこそしても、感謝されるいわれは、

「ありが、ぷぇ」

え?

振り向くと、そこには信じられない光景が広がっていた。