神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…ついに来たね。死神。

人を殺す仕事を運んでくるんだから、こいつは死神みたいなもんだよ。

手を下してるのは俺なんだけどね。

「…何?」

「このポイントに行け。ここに女が一人で住んでいる」

挨拶も前置きも、何もなく。

ただただビジネスライクに、指示だけを伝えてきた。

手渡してきた紙切れには、とある住所が記載してあった。

「これが今回のターゲットだ」

「…ふーん…」

いつも通りの、シンプルな指示だった。

余計なことは一切言わない。頑張ってとか気を付けてとか、そういう励ましや気遣いも一切ない。

別に期待してる訳じゃないから、良いけど。

だけど…。

「…この人、何をしたの?」

俺は自分でも無意識のままに、そう質問していた。

「なんだと?」

「ターゲットに選ばれるからには、何らかの理由があるんでしょ…。何をしたの?この人」

「お前がそれを知る必要はない」

はぁ?

「興味本位で聞いてるんじゃないよ。仕事の為に聞いてるんだ。情報を知っておけば、いざって時役に立つかもしれない」

「…いざ、という時がお前にあるのか?」

「知らないよ、そんなこと。行ってみないと分からないでしょ」

連絡係は、釈然としないようだった。

実は、自分でもこんな質問をした理由はよく分からなかった。

ターゲットが何故ターゲットにされたのか、その事情なんて…これまでの俺は、気にしたことがなかった。

どんな事情があれど、どんな境遇だろうと、ターゲットに選ばれたからには、俺にとって暗殺対象以外の何者でもない。

余計な情報を知る必要はなかった。…知りたくもなかった。

だけど、今の俺は…何故か、ターゲットが何者なのか、何故ターゲットに選ばれたのか…その理由を知りたかった。

「…薬の密売人だ」

釈然としないながらも、連絡係は俺の質問に答えた。

…薬。

って聞けば、ツキナみたいな純粋な子だったら。

「風邪薬?酔い止め?目薬?」と首を傾げるだろうけど。

『アメノミコト』のような…裏の組織で「薬」と言えば、麻薬のことと相場が決まっている。

「外国から仕入れた薬を、秘密裏に密売しているそうだ。もちろん、自身も常用している」

「…ふーん…」

厄介な麻薬中毒者、ってことね。

『アメノミコト』は何も、そういう違法な薬に反対してる訳じゃない。

むしろ、『アメノミコト』という組織では、武器や薬の売買にも手を出している。

だからこそ、『アメノミコト』を介さず、個人的に薬の売買をされると。

『アメノミコト』が支配している麻薬の相場が変動してしまう。

ジャマ王国の麻薬市場を守る為に、邪魔者は排除しなければならない。

…以前もこうやって、薬関係のターゲットを何人か、殺したことがある。

非常に根が深く、金や利権や欲望が複雑に絡み合った、厄介な問題なのだ。

「情報は、これで良いな?」

「うん…。…まぁ、いーよ」

「起源は二日後だ。それまでにやり遂げろ」

言うべきことだけを、さっさと言って。

無愛想な連絡係は、退室していった。

…。

…さて。

それじゃ、俺も仕事の準備をしないと。