神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

最高に嫌な気分で、鬼頭の部屋を出て。

それから二日ほど、俺は『アメノミコト』本部の一室で待機していた。

命令があるまでここで待機しろと、そう指示されたのだ。

そこは、俺が以前…『アメノミコト』にいた頃に使っていた部屋だった。

いつか、俺が戻ってくるのを待っていたかのように。

俺の昔の私物が、部屋の中にそのまま残されていた。

懐かしいなんて思わない。

むしろ、こういうところが酷く嫌味っぽくて、気に入らなかった。

そして俺はこの二日間、何もやることがなくて。

ずっと、ルーデュニア聖王国に置いてきた人のことばかり考えていた。

『八千代』のことであり、ツキナのことであり…。

学院長せんせーや羽久せんせーや、イレースせんせーや天音せんせーや、それにナジュせんせーや…マシュリのことも。

それに、学校の同級生のこととか…。

あとは…園芸部の畑のこと。

来年は一緒にイチゴを植えようって…ツキナと約束、してたんだけどなぁ…。

害虫退治用の農薬を、俺の毒魔法で自作して…。

それに、害獣に収穫物を食べられてしまわないように、一晩中『八千代』と一緒に畑を見守ろうって…。

そしてイチゴが収穫出来たら、まずはそのまま食べて、砂糖や練乳をかけて食べて。

それから大きなイチゴケーキを作って、みんなで食べようって…。

…そういう楽しいことを、たくさん考えてたんだけどな。

あっという間に、一瞬にして、それらの計画は塵となった。

現実の俺はと言うと、暗殺の仕事が舞い込んでくるまで、この陰気な部屋でぼーっと過ごしている。

人生って、ほんと分かんないもんだねー。

いやはや。波乱万丈な人生だよ。

まだ子供のはずなんだけど。既に色んなこと起き過ぎでしょ。

だけどね、俺は…心の中で何処か、ちょっと安心してるんだよ。

イーニシュフェルト魔導学院にいる間、ずっと。

「俺、こんなに幸せで良いんだろうか?」って、心の奥でずっと思ってた。

これまで散々人を殺した俺が…こんな風に幸せになって良いんだろうか、って。

俺はもっと…惨めで、苦しくて、悲惨な人生の方が似つかわしいんじゃないかって。

そうでないと、俺に殺された人達は納得しないだろうって…。

やっぱり、案の定そうだったね。

何もかも、過去にした悪行の全てをなかったことにして。

俺が人並みに幸せになろうなんて…。そんなことは決して許されない。

…きっと、幸せ過ぎてバチが当たったんだね。

そう思えば、今の状況にも納得が行く。

でも、良いよ。充分だよ。

もう既に…この身に許された幸福のすべてを享受した。

これからは、どんなに辛くても大丈夫。

自分にも幸福な時間があったんだって、その事実があるだけで。

これからどんなに辛いことが有っても、俺は乗り越えていける。

みんなと一緒に過ごした時間は、その事実は、決して嘘じゃない。なくなったりはしないのだから…。

…寂しいけれど、これが俺の運命なのだ。

むしろ、俺は他の暗殺者のみんなよりマシなんじゃない?

人生の中で、「幸せだった」と思える時間があったのだから。

幸福なことなど何も知らず、ただ機械的に人を殺し続けてきた、空虚な日々とは違う。

俺は、幸せがどういうものだったか知ってる。

それだけで、充分にこれからの人生を生きていける…。

だから、俺はもうだいじょーぶ。

きっとツキナもいつか、俺のことを忘れて。

彼女はあの平和なルーデュニア聖王国で、幸福な人生を謳歌するだろう…。

それが、今の俺の唯一の希望…。



…などと、考えていたその時。

「仕事だ。『八千歳』」

「…」

部屋の中に、黒子の衣装を纏った『アメノミコト』の連絡係がやって来た。