ターゲットがいるという、国境沿いの村に到着しても。
相変わらず、僕の気持ちは晴れないままだった。
胸の奥に、大きな重石を乗せられたような気分…。
…こんなんじゃ駄目だ。
「…ふんっ」
僕は、自分の両手で自分の頬をばちん、と叩いた。
ちょっと力を入れ過ぎて、思いの外痛かった。
ほっぺたがじんじんしている。
でも、お陰で少し気合が入った。
…僕がその気になったのは、これが仕事だからではない。
もし僕が仕事に失敗したら、やっぱりお前は役に立たないから、『八千歳』も連れ戻す、と。
頭領に、そう言われるんじゃないかと思って。
だから、『八千歳』を守る為にも、僕は自分の有用性を組織に示さなくてはならないのだ。
深夜になるのを待って、僕は、こっそり村の中に入り込んだ。
国境沿いにある貧しいこの村は、街灯も明かりもなく、闇の帳が降りていた。
辺りは真っ暗で、人の声すらしない。寂れた村。
…暗殺にはもってこい、って感じ。
すっかり寝静まったその村に入り込むのは、少しも難しいことではなかった。
暗闇の中でも、僕が迷うことはない。
小さなその村の中で、ターゲットの家はすぐに見つかった。
…あばら家である。
その家には扉も窓もなく、入口には藁で作ったすだれのようなカーテンがかけられているだけ。
僕はそのすだれを、そっと開けた。
一部屋しかない、小さな家の中に、ターゲットがいた。
汚れたゴザの上に、年老いた老婆と、その息子である男性が、並んで眠っていた。
家の中には、家具と呼べるようなものはほとんどなかった。
水瓶と、僅かな調理道具。
そして、衣類を入れた小さな行李が一つ。このくらいだ。
だけど、部屋の隅に、段ボール箱がいくつか積んであった。
僕は、その段ボール箱をそっと開けてみた。
中には、黒光りする拳銃が入っていた。
…このあばら家に、拳銃があるとは。
何だか似つかわしくないが。
この親子が武器を密輸しているという、何よりの動かぬ証拠だった。
…さぁ、あとは簡単だ。
眠っているこの親子を、順番に殺せば良い。
相手が素人の一般人なら、難しいことは何もない。
ましてや、相手は眠っているのだから。
眠っている間に…喉元をグサッ、と刺すだけで…それだけで。
『終日組』の暗殺者なんて出る幕もない。
誰でも出来る、とても簡単な仕事。
こんな簡単な仕事で頭領の信頼が得られるのなら。『八千歳』を守れるなら。安いものだ。
いなくなったところで誰も困らない、この無力で貧乏な親子を殺すだけで…。
…僕は懐に手を入れ、小刀を取り出した。
これを急所に刺せば、あっという間に仕事は終わり…。
…の、はずだったのに。
「…」
僕は小刀を手に握ったまま、硬直したように動けなくなった。
相変わらず、僕の気持ちは晴れないままだった。
胸の奥に、大きな重石を乗せられたような気分…。
…こんなんじゃ駄目だ。
「…ふんっ」
僕は、自分の両手で自分の頬をばちん、と叩いた。
ちょっと力を入れ過ぎて、思いの外痛かった。
ほっぺたがじんじんしている。
でも、お陰で少し気合が入った。
…僕がその気になったのは、これが仕事だからではない。
もし僕が仕事に失敗したら、やっぱりお前は役に立たないから、『八千歳』も連れ戻す、と。
頭領に、そう言われるんじゃないかと思って。
だから、『八千歳』を守る為にも、僕は自分の有用性を組織に示さなくてはならないのだ。
深夜になるのを待って、僕は、こっそり村の中に入り込んだ。
国境沿いにある貧しいこの村は、街灯も明かりもなく、闇の帳が降りていた。
辺りは真っ暗で、人の声すらしない。寂れた村。
…暗殺にはもってこい、って感じ。
すっかり寝静まったその村に入り込むのは、少しも難しいことではなかった。
暗闇の中でも、僕が迷うことはない。
小さなその村の中で、ターゲットの家はすぐに見つかった。
…あばら家である。
その家には扉も窓もなく、入口には藁で作ったすだれのようなカーテンがかけられているだけ。
僕はそのすだれを、そっと開けた。
一部屋しかない、小さな家の中に、ターゲットがいた。
汚れたゴザの上に、年老いた老婆と、その息子である男性が、並んで眠っていた。
家の中には、家具と呼べるようなものはほとんどなかった。
水瓶と、僅かな調理道具。
そして、衣類を入れた小さな行李が一つ。このくらいだ。
だけど、部屋の隅に、段ボール箱がいくつか積んであった。
僕は、その段ボール箱をそっと開けてみた。
中には、黒光りする拳銃が入っていた。
…このあばら家に、拳銃があるとは。
何だか似つかわしくないが。
この親子が武器を密輸しているという、何よりの動かぬ証拠だった。
…さぁ、あとは簡単だ。
眠っているこの親子を、順番に殺せば良い。
相手が素人の一般人なら、難しいことは何もない。
ましてや、相手は眠っているのだから。
眠っている間に…喉元をグサッ、と刺すだけで…それだけで。
『終日組』の暗殺者なんて出る幕もない。
誰でも出来る、とても簡単な仕事。
こんな簡単な仕事で頭領の信頼が得られるのなら。『八千歳』を守れるなら。安いものだ。
いなくなったところで誰も困らない、この無力で貧乏な親子を殺すだけで…。
…僕は懐に手を入れ、小刀を取り出した。
これを急所に刺せば、あっという間に仕事は終わり…。
…の、はずだったのに。
「…」
僕は小刀を手に握ったまま、硬直したように動けなくなった。


