神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ターゲットがいるという、国境沿いの村に到着しても。

相変わらず、僕の気持ちは晴れないままだった。

胸の奥に、大きな重石を乗せられたような気分…。

…こんなんじゃ駄目だ。

「…ふんっ」

僕は、自分の両手で自分の頬をばちん、と叩いた。

ちょっと力を入れ過ぎて、思いの外痛かった。

ほっぺたがじんじんしている。

でも、お陰で少し気合が入った。

…僕がその気になったのは、これが仕事だからではない。

もし僕が仕事に失敗したら、やっぱりお前は役に立たないから、『八千歳』も連れ戻す、と。

頭領に、そう言われるんじゃないかと思って。

だから、『八千歳』を守る為にも、僕は自分の有用性を組織に示さなくてはならないのだ。

深夜になるのを待って、僕は、こっそり村の中に入り込んだ。

国境沿いにある貧しいこの村は、街灯も明かりもなく、闇の帳が降りていた。

辺りは真っ暗で、人の声すらしない。寂れた村。

…暗殺にはもってこい、って感じ。

すっかり寝静まったその村に入り込むのは、少しも難しいことではなかった。

暗闇の中でも、僕が迷うことはない。

小さなその村の中で、ターゲットの家はすぐに見つかった。

…あばら家である。

その家には扉も窓もなく、入口には藁で作ったすだれのようなカーテンがかけられているだけ。

僕はそのすだれを、そっと開けた。

一部屋しかない、小さな家の中に、ターゲットがいた。

汚れたゴザの上に、年老いた老婆と、その息子である男性が、並んで眠っていた。

家の中には、家具と呼べるようなものはほとんどなかった。

水瓶と、僅かな調理道具。

そして、衣類を入れた小さな行李が一つ。このくらいだ。

だけど、部屋の隅に、段ボール箱がいくつか積んであった。

僕は、その段ボール箱をそっと開けてみた。

中には、黒光りする拳銃が入っていた。

…このあばら家に、拳銃があるとは。

何だか似つかわしくないが。

この親子が武器を密輸しているという、何よりの動かぬ証拠だった。

…さぁ、あとは簡単だ。

眠っているこの親子を、順番に殺せば良い。

相手が素人の一般人なら、難しいことは何もない。

ましてや、相手は眠っているのだから。

眠っている間に…喉元をグサッ、と刺すだけで…それだけで。

『終日組』の暗殺者なんて出る幕もない。

誰でも出来る、とても簡単な仕事。

こんな簡単な仕事で頭領の信頼が得られるのなら。『八千歳』を守れるなら。安いものだ。

いなくなったところで誰も困らない、この無力で貧乏な親子を殺すだけで…。

…僕は懐に手を入れ、小刀を取り出した。

これを急所に刺せば、あっという間に仕事は終わり…。




…の、はずだったのに。

「…」

僕は小刀を手に握ったまま、硬直したように動けなくなった。