神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

しかし、鬼頭夜陰の思惑なんて、考えている暇はなかった。

早速、僕は復帰後、最初の任務を任された。

その任務を伝えに来たのは、『アメノミコト』の連絡係だった。

黒子のように顔を隠した彼らは、僕達、実行役の暗殺者に任務の内容や。

また、頭領である鬼頭夜陰からの伝言を伝えるなど、組織内のパイプのような役割を果たしている。

以前は、彼らを見ても何の感情も沸かなかった。

でも今は、僕はその連絡係が、死を運んでくる死神のように見えた。

黒い服を着ているから、余計にそう思うのだろう。

彼らが、僕達暗殺者に殺しの指示を出すのだから…。

「国境沿いにAという村がある。そこに住んでいる親子二人を殺せ」

連絡係は、感情を感じさせない声で、淡々と指示した。

それはいつも通り…『アメノミコト』ではいつも通りの、暗殺の指示だった。

だけど僕はそれを聞いて、無意識に恐怖を感じた。

説明しようのない…ゾッとするような恐怖を。

「期日は明後日まで。今すぐに発ち、実行した後すぐ報告に戻るように、とのご命令だ」

「…そう」

僕が頷くと、連絡係は余計なことは言わず、用件は伝えたとばかりに立ち去ろうとした。

だが、僕にはまだ疑問が残っていた。

「その、ターゲットの親子って」

「…?」

「…一体何をしたの?」

自分で口にしたことではあったが、誰より自分が驚いていた。

…ターゲットが「何故殺されなければならないのか」なんて、気にしたことは一度もなかったのに。

大事なのは、ターゲットの息の根を確実に止めること。そして、それを完全に隠蔽すること。

ターゲットになった理由なんて、暗殺者にとってはどうでも良い。

どうでも良い…ことの、はずなのに。

僕はどうしても、そう聞かずにはいられなかったのだ。自分でも無意識に。

その親子は、本当に殺されなきゃいけないようなこと、したの?

「…何故そんなことを聞く?」

ただの実行役に過ぎない僕が、わざわざ理由を尋ねたからだろう。

連絡係は、不審そうに聞き返してきた。

「別に…ターゲットに関する情報は、少しでも多い方が…仕事を進める上で便利だから」

僕は、誤魔化すようにそう答えた。

「その為に知りたかっただけだよ」

「…」

どうやら、僕のことが疑わしいようだが。

それでも、仕事の為に必要と言ったお陰か。

「…国境沿いで、密輸に手を貸しているそうだ」

と、ターゲットの情報を教えてくれた。

「密輸…?」

「武器の密輸だ」

「…ふーん…」

つまり、商売仇ってことだ。『アメノミコト』は暗殺稼業だけではなく、武器の売買も手掛けている。

この国で行われる、ほぼ全ての武器の売買を請け負っている。

だから、『アメノミコト』を介さず、個人で勝手に売買されると、『アメノミコト』としては商売上がったり、という状況になる。

その為に…商売仇を消そうと…。

この手の暗殺の仕事は、これまでも何度もやったことがある。

何も特別なことはない。いつも通りの仕事…。

…それなのに。

「他に、何か気になることでも?」

「…いや」

僕が首を振ると、連絡係は黙って、足早に立ち去った。

一人残された僕は、早速任務の為に、出立しなければならなかった。