「…」
僕は、無言で部屋の中に入った。
言うべきことなど、何もなかった。
「…来たか。黒月令月」
鬼頭夜陰の冷たく、鋭く、そして残忍な眼差しが、僕に突き刺さった。
もう僕は、とっくに『アメノミコト』の暗殺者をやめたつもりだった。
それでも、幼少期から植え付けられた、この男に対する恐怖心は、相変わらず消えなかった。
…この男を見ると、嫌でも思い出す。
人を殺す為に育てられ、人を殺す為の道具にされた…過去の自分のことを。
次、彼と会う時は、どちらかが死ぬ時だと思っていた。
当然、鬼頭夜陰は裏切り者の僕を許さないだろう。
今回僕を連れ戻したのも、その為だと思っていた。
…だけど。
「待っておったぞ。…お前が戻ってくるのを」
「…え…?」
「今後はまた儂の為に、そして『アメノミコト』の為に力を尽くしてもらう」
「…」
…これは予想していない言葉だった。
「…僕を殺すつもりだったんじゃないの?」
「そうして欲しいのか?」
…そういう訳じゃないけど。
でも、これじゃあ…まるで、僕が『アメノミコト』を裏切ったことを許したかのような…。
「…おのれが許されたとでも思ったか?」
「っ…」
図星を突かれて、僕は身体を硬直させた。
「『アメノミコト』は、決して裏切り者を許さぬ…。その掟は、今も変わっていない」
「…だったら、なんで」
「勘違いをするな。許してなどおらぬ。貴様の命は、常にいつ終わってもおかしくないものと心得よ」
…分かってるよ。
初めて人を殺した時から、ずっとそう思ってる。
一度でも他人の命を奪った以上、自分の命も同じように奪われることを、いつだって覚悟している。
「だからこそ、その働きで罪を償ってもらう」
「…」
「話は終わりだ。去(い)ね」
僕は何も答えず、頭領の指示通り退室した。
…殺されなかった。
殺されなかったことに、僕は驚いていた。
どうして?
処遇がぬるいんじゃないか、と思った。
…あの頭領に限って、僕に慈悲を与えた?
そんなはずはない。あの人の辞書の中に、「慈悲」なんて言葉があるとは思えない。
僕を脅してまで、『アメノミコト』に戻らせて。
あの人は、一体何が目的なのだろう。
僕には、どうしてもそれが分からなかった。
僕は、無言で部屋の中に入った。
言うべきことなど、何もなかった。
「…来たか。黒月令月」
鬼頭夜陰の冷たく、鋭く、そして残忍な眼差しが、僕に突き刺さった。
もう僕は、とっくに『アメノミコト』の暗殺者をやめたつもりだった。
それでも、幼少期から植え付けられた、この男に対する恐怖心は、相変わらず消えなかった。
…この男を見ると、嫌でも思い出す。
人を殺す為に育てられ、人を殺す為の道具にされた…過去の自分のことを。
次、彼と会う時は、どちらかが死ぬ時だと思っていた。
当然、鬼頭夜陰は裏切り者の僕を許さないだろう。
今回僕を連れ戻したのも、その為だと思っていた。
…だけど。
「待っておったぞ。…お前が戻ってくるのを」
「…え…?」
「今後はまた儂の為に、そして『アメノミコト』の為に力を尽くしてもらう」
「…」
…これは予想していない言葉だった。
「…僕を殺すつもりだったんじゃないの?」
「そうして欲しいのか?」
…そういう訳じゃないけど。
でも、これじゃあ…まるで、僕が『アメノミコト』を裏切ったことを許したかのような…。
「…おのれが許されたとでも思ったか?」
「っ…」
図星を突かれて、僕は身体を硬直させた。
「『アメノミコト』は、決して裏切り者を許さぬ…。その掟は、今も変わっていない」
「…だったら、なんで」
「勘違いをするな。許してなどおらぬ。貴様の命は、常にいつ終わってもおかしくないものと心得よ」
…分かってるよ。
初めて人を殺した時から、ずっとそう思ってる。
一度でも他人の命を奪った以上、自分の命も同じように奪われることを、いつだって覚悟している。
「だからこそ、その働きで罪を償ってもらう」
「…」
「話は終わりだ。去(い)ね」
僕は何も答えず、頭領の指示通り退室した。
…殺されなかった。
殺されなかったことに、僕は驚いていた。
どうして?
処遇がぬるいんじゃないか、と思った。
…あの頭領に限って、僕に慈悲を与えた?
そんなはずはない。あの人の辞書の中に、「慈悲」なんて言葉があるとは思えない。
僕を脅してまで、『アメノミコト』に戻らせて。
あの人は、一体何が目的なのだろう。
僕には、どうしてもそれが分からなかった。


