神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

そりゃまぁ、出来るだけ手荒な真似はされたくない、という本音はありますけどね。

僕が大人しく連れてこられることで、代わりに天音さんを守れたのだから。

僕にとっては、これ以上大切なことはない。

この後どんな目に遭っても、後悔したりはしませんよ。

という、僕の意見を聞いて。目の前の暗殺者の青年は。

「…あなた達は、本当に…」

「はい?」

「…いえ、何でもありません」

…何ですか。はっきり言ってくれれば良いのに。

あぁ。心が読めないって不便ですね。

だって、相手が何考えてるか分からないんですよ?

目が見えないことより、心の中が聞こえないことの方が、よっぽど不安で心細かった。

「あなたを、ここに連れてきた理由ですが」

「お、説明してくれる気になりました?」

「あなたの読心魔法を利用させて欲しいからです」

「…」

意外とストレートな要求で、ちょっとびっくりしましたね。

頭ごなしに、「読心魔法を使え!」と命令するのではなく。

「あなたの読心魔法を使わせて欲しい」と、ちょっと下手(したて)に出る辺りに、好感を感じます。

「もーしょうがないなぁ」って、聞いてあげたくなりますよ。

「つまり、心を読んで欲しい相手がいるってことですか」

「そうです。あなたの読心魔法の強さは、我々もよく知るところ」

ですよね。以前戦ったことありますし。

僕の読心魔法で痛い目を見て、充分反省したと見える。ふふふ。

「だから、あなたの力を使わせて欲しいんです」

「成程…」

つまり、引き抜きですか。

イーニシュフェルト魔導学院で教師なんてするのはやめて、『アメノミコト』で働かないか?みたいな。

いやぁ。他企業に引き抜きされるなんて、何だか恥ずかしいですね。

「あなたの待遇については保証します」

とのこと。

聞きました?

多分、今より良い給料で、お休みもいっぱいあって。

三度の食事、住まいを保証され、しかも昼寝、おやつ付き。

未経験者歓迎。明るくて、アットホームな職場です。…ってね。

…何の冗談ですかね?

「お断りします」

僕は笑顔でそう答えた。

「考えてもらえませんか?」

「お断りします」

考える余地なんて、一片も、どころか1ミリもない。

冗談じゃありませんよ。

何千何億もらったって、毎日が有給休暇だとしても、ジャマ王国に大豪邸をプレゼントされたとしても。

僕は、雇われのイーニシュフェルト魔導学院の教師であることを望みますよ。

「あなたは暗殺者ではない。だから、暗殺をする必要はありません。ただ、読心魔法を使ってもらえれば…」

「お断りしますって、何度言ったら分かるんですか?」

くどいですよ。

何度誘われても、何を対価に出されても、僕は譲らない。

理由なんて、説明するまでもないでしょう?

「…そうですか」

目の前の彼も、僕の答えを予想していたのだろう。

驚くことはなかった。ただ、淡々と頷いた。

「とても残念です」

「…じゃ、これで採用試験はおしまいということで。僕をルーデュニア聖王国に帰してくれますよね?」

ついでに、令月さんとすぐりさんも一緒に帰してもらえると。

とても、とても嬉しいんですけどね。

しかし。

「それは出来ません」

きっぱりと断られてしまった。

…まぁ、そうなりますよね。