ーーーーー…ルーデュニア聖王国、王都セレーナの大通りで、地面に蹲って悶えている天音を見つける、その数分前。

俺とベリクリーデは、その日の任務を終えて帰っている途中だった。

この時点で俺はまだ、令月とすぐりが『アメノミコト』に連れて行かれた、というニュースを知らなかった。

今日は朝から任務に出ていた為、知らなかったのだ。

その為、隨分と呑気だった。

その証拠に、ベリクリーデも…。

「なつがくーれば思い出すー♪」

歩きながら、調子っ外れの歌声で歌っている。

…あのな、ベリクリーデ。
 
楽しそうに歌ってるのは良いけど、今の季節は冬だ。

真冬に夏の歌を歌うんじゃねぇよ。

「みずぱっしょー♪のはながーさいているー♪」

…みずぱっしょって何だよ。

水芭蕉な、水芭蕉。

真冬なのに夏の歌を歌い、しかも歌詞まで間違えているベリクリーデは。

どう見ても、怪しい人にしか見えない。

俺は関わり合いになりたくないので、他人のフリをしたかったのだけど…。

「ねぇねぇ、ジュリスー」

「…何だよ…」

「ジュリスは、みずぱっしょの花、見たことある?」

思いっきり俺に話しかけてきてるので、他人のフリは無理だった。

…はぁ。

仕方ない。…ちゃんと俺が引率するよ。

「あのな…。みずぱっしょ、じゃなくて…。水芭蕉だから…」

「どんな色なのかなー」

「白い花だよ…」

「美味しいのかなー」

「食うなよ…」

何でもかんでも口に入れるんじゃない。お前は。

アレだな。小さい赤ちゃんが、見つけたものを何でも口に入れるのと一緒。

お腹空いてるのか?なぁ。

「折角だから、何か食べて帰るか?」

「ほぇ?」

「どうせ、今帰ってたら、もう夕飯の時間だろ。たまには外で食べて帰ろうぜ」

と、誘うと。

ベリクリーデは、ステーキディナーでも誘われたかのように目をキラキラさせていた。

「うん!食べる!」

はいはい、分かった分かった。

「何が良い?」

「え?うーん、そうだな…」

良いぞ。何なら、ステーキディナーでも。

たまには贅沢しても良いだろ?

「えぇーっとねー。…牛丼!」

「…やすっ…」

ごめん。つい本音が。

悪口じゃないんだよ。

だって、お洒落なお店のコース料理みたいなのを想定してたからさ。

まさかの牛丼って…。お前は安い女だな。

「…安いの?」

「並で500円くらいじゃん…」

「でも、前にキュレムが言ってたよ。カレーと牛丼は、滅多にお目にかかれない贅沢料理だって」

「あいつ…また適当言いやがって…」

ベリクリーデに変なことを教えるんじゃない。

そりゃ牛丼も美味しいけども。

「牛丼も良いけどさ…。今日は…そうだ、オムライスとかどうだ?」

何でも良いから、牛丼よりもうちょっとお高そうな料理…と考えて。

咄嗟に出てきたのがオムライスだった。

…牛丼もオムライスも、どっちもご飯ものじゃん。

そこはハンバーグとか、グラタンとか、もうちょっとお洒落な料理を提案すれば良かった。

と、後悔したけれど。

子供舌なベリクリーデは、オムライスでも充分魅力的だったようで。

「オムライスっ?」

目がキラッキラしてる。目が。

「よし、じゃあ食べに行くか」

「やったー。オムライス〜」

まったく。げんきんな奴だよ。