神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

い…。

いつの、間に。

気が付かなかった。僕も、それにナジュ君も。

「あなたは…!」

ナジュ君が、すぐさま反撃しようとした。

しかし。

「動くな」

青年は、周囲に聞こえないよう。

僕らにだけ聞こえる小さな声で、そう呟いた。

抑揚のない、しかしはっきりとした声だった。

動きたくても、僕は動けなかった。

刺された痛み以上に、身体の内側から痺れるような感覚に襲われた。

…毒だ、と気づいたけれど、気づいた時にはどうすることも出来なかった。

「う…ぐ…」

何で、こんなことを。

「あなた…。…『アメノミコト』の暗殺者ですね」

心を読んだのだろう。

ナジュ君が、突然襲ってきた敵の正体を見破った。

「令月さんとすぐりさんを連れ去って…その上、天音さんまで…!」

「動くな、って言ったはずだよ」

「…」

ナジュ君は動けなかった。

僕の命を保証する為に。

毒を使われて、自分の意志で動けない以上。

僕の命は今、この青年の手のひらの上なのだ。

それが分かっているからこそ、ナジュ君も動けないのだ。

「こんな…ことをして、君は…何が目的、なの…?」

身体は痺れていたけれど、口は何とか動いた。

黒フードの青年が、僕に向かってこう言った。

「目的は君じゃない」

…え?

「僕の目的は…君だ」

青年は、ナジュ君をじっと見つめていた。

ど…どういう、こと?

「『終日組』暗殺者の思考さえ読める、優秀な読心魔法の使い手…。それに、不死身の身体…。充分に利用価値がある」

「…」

「一緒に来てもらうよ」

その言葉で、僕は青年が何を狙っているのか分かった。

僕の…命を人質に取ることで、ナジュ君を連れ去ろうと…!

間違いない。令月さんとすぐりさんも、きっと…こんな風にして、『アメノミコト』に連れていかれたんだ。

彼らがいなくなったのに…ナジュ君まで、『アメノミコト』に連れて行かれたら。

そう思うと、僕は叫び出しそうになった。

「だ…だめ、だよ。ナジュ君…!」

行っちゃ駄目だ。そんなことしたら…敵の思う壺だ。

「黙って。君に口を挟む権利はない」

「うぐっ…」

黒いフードの青年は、僕を黙らせる為にナイフを強く、ぐっと押した。

痛みよりも、痺れの方が強かった。

「な…じゅ、く…」

毒が、身体中に回ったのだろう。

ついに、口元が痺れて、呂律が回らなくなってきた。

だけど、ナジュ君は心を読めるから。

必ずしも言葉で伝える必要はない。

お願い、行っちゃ駄目だよ。ナジュ君。

行かないで…。令月さん達に続いて、君までいなくなったら…僕は、僕達は…!

「…」

ナジュ君は、間違いなく僕が心の中で、そう哀願していることに気づいていたはずだ。

そんなナジュ君は。

何故か、ふっと微笑んだ。