神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

エリュティアさんに会った、その帰り道。

人通りの多い、セレーナの大通りを二人で歩きながら。

「すっかり遅くなっちゃったね…」

「今頃、学院はもう放課後ですねぇ」

大通りには、学校帰り、あるいは仕事帰りらしい学生や社会人の皆さんが、足早に帰宅を急いでいた。

僕達も急がなければ。

今から帰ってたら、もう下校時刻には間に合わないな…。

…って、僕らは生徒じゃなくて教師だから、下校時刻を守る必要はないんだけど…。

「いえ、その考えは甘いですよ。天音さん」

「えっ?」

僕の心を読んだらしいナジュ君が、厳しい顔つきで言った。

「むしろ教師だからこそ、誰よりも厳格に下校時刻を守るべし、とか言われそうじゃないですか?イレースさんに」

「うっ…」

…有り得る。言いそう。

「どうします?校門の鍵を閉められて、一晩中外に追い出されたら」

「その時は…。…一緒に、外で焚き火でもしよっか…」

乾いた笑顔を浮かべるしかなかった。

…入れてもらえるよね?

い、急いで帰ろう。

「あ、でもちょっと待って。その前に、買い物をして帰っても良い?」

「何を買うんですか?」

「戦うことになるかもしれないから…。包帯とか痛み止めの薬とか、補充しておきたくて…」

備えあれば憂いなし、でしょう?

いざって時に困らないように、用意出来ることは全部しておきたくて。

「分かりました。良いですよ」

「ありがとう」

「じゃあ、締め出されたら一緒に野宿でもしますかー」

「…そ…それは考えないようにしようよ…」

一緒に謝ろう?その時は。

必死に謝ったら、きっとイレースさんも入れてくれるよ。…多分。

「出来るだけ急いで、学院に…」

と、僕が言いかけたその時。

「わっ」

「…」

どんっ、と。

すれ違った黒いパーカー姿の青年が、ふらりと倒れ込むように、僕の肩にぶつかった。

しまった。僕、喋るのに夢中になってて。

早足で向こうから歩いてきた人に、気づかなかった。

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「…すみません」

ぶつかった黒いパーカーの青年が、小声で謝ってきた。

フードを深々と被っていて、顔はほとんど見えない。

だけど。

その顔は…何処かで、見たことがあるような気がした。

その時。

「…!天音さん、あなた…!」

突然、ナジュ君が驚愕に目を見開いていて。

何かあったんだろうか。

「どうかしたの?」とナジュ君に聞こうとした。

でも、声が出せなかった。


「…えっ」



見下ろすと、自分の鳩尾に、彫刻刀みたいな細くて小さなナイフが、深々と刺さっていた。

かぷっ、と音がした。

喉の奥から、血の塊を吐き出した音だった。