エリュティアさんに会った、その帰り道。
人通りの多い、セレーナの大通りを二人で歩きながら。
「すっかり遅くなっちゃったね…」
「今頃、学院はもう放課後ですねぇ」
大通りには、学校帰り、あるいは仕事帰りらしい学生や社会人の皆さんが、足早に帰宅を急いでいた。
僕達も急がなければ。
今から帰ってたら、もう下校時刻には間に合わないな…。
…って、僕らは生徒じゃなくて教師だから、下校時刻を守る必要はないんだけど…。
「いえ、その考えは甘いですよ。天音さん」
「えっ?」
僕の心を読んだらしいナジュ君が、厳しい顔つきで言った。
「むしろ教師だからこそ、誰よりも厳格に下校時刻を守るべし、とか言われそうじゃないですか?イレースさんに」
「うっ…」
…有り得る。言いそう。
「どうします?校門の鍵を閉められて、一晩中外に追い出されたら」
「その時は…。…一緒に、外で焚き火でもしよっか…」
乾いた笑顔を浮かべるしかなかった。
…入れてもらえるよね?
い、急いで帰ろう。
「あ、でもちょっと待って。その前に、買い物をして帰っても良い?」
「何を買うんですか?」
「戦うことになるかもしれないから…。包帯とか痛み止めの薬とか、補充しておきたくて…」
備えあれば憂いなし、でしょう?
いざって時に困らないように、用意出来ることは全部しておきたくて。
「分かりました。良いですよ」
「ありがとう」
「じゃあ、締め出されたら一緒に野宿でもしますかー」
「…そ…それは考えないようにしようよ…」
一緒に謝ろう?その時は。
必死に謝ったら、きっとイレースさんも入れてくれるよ。…多分。
「出来るだけ急いで、学院に…」
と、僕が言いかけたその時。
「わっ」
「…」
どんっ、と。
すれ違った黒いパーカー姿の青年が、ふらりと倒れ込むように、僕の肩にぶつかった。
しまった。僕、喋るのに夢中になってて。
早足で向こうから歩いてきた人に、気づかなかった。
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「…すみません」
ぶつかった黒いパーカーの青年が、小声で謝ってきた。
フードを深々と被っていて、顔はほとんど見えない。
だけど。
その顔は…何処かで、見たことがあるような気がした。
その時。
「…!天音さん、あなた…!」
突然、ナジュ君が驚愕に目を見開いていて。
何かあったんだろうか。
「どうかしたの?」とナジュ君に聞こうとした。
でも、声が出せなかった。
「…えっ」
見下ろすと、自分の鳩尾に、彫刻刀みたいな細くて小さなナイフが、深々と刺さっていた。
かぷっ、と音がした。
喉の奥から、血の塊を吐き出した音だった。
人通りの多い、セレーナの大通りを二人で歩きながら。
「すっかり遅くなっちゃったね…」
「今頃、学院はもう放課後ですねぇ」
大通りには、学校帰り、あるいは仕事帰りらしい学生や社会人の皆さんが、足早に帰宅を急いでいた。
僕達も急がなければ。
今から帰ってたら、もう下校時刻には間に合わないな…。
…って、僕らは生徒じゃなくて教師だから、下校時刻を守る必要はないんだけど…。
「いえ、その考えは甘いですよ。天音さん」
「えっ?」
僕の心を読んだらしいナジュ君が、厳しい顔つきで言った。
「むしろ教師だからこそ、誰よりも厳格に下校時刻を守るべし、とか言われそうじゃないですか?イレースさんに」
「うっ…」
…有り得る。言いそう。
「どうします?校門の鍵を閉められて、一晩中外に追い出されたら」
「その時は…。…一緒に、外で焚き火でもしよっか…」
乾いた笑顔を浮かべるしかなかった。
…入れてもらえるよね?
い、急いで帰ろう。
「あ、でもちょっと待って。その前に、買い物をして帰っても良い?」
「何を買うんですか?」
「戦うことになるかもしれないから…。包帯とか痛み止めの薬とか、補充しておきたくて…」
備えあれば憂いなし、でしょう?
いざって時に困らないように、用意出来ることは全部しておきたくて。
「分かりました。良いですよ」
「ありがとう」
「じゃあ、締め出されたら一緒に野宿でもしますかー」
「…そ…それは考えないようにしようよ…」
一緒に謝ろう?その時は。
必死に謝ったら、きっとイレースさんも入れてくれるよ。…多分。
「出来るだけ急いで、学院に…」
と、僕が言いかけたその時。
「わっ」
「…」
どんっ、と。
すれ違った黒いパーカー姿の青年が、ふらりと倒れ込むように、僕の肩にぶつかった。
しまった。僕、喋るのに夢中になってて。
早足で向こうから歩いてきた人に、気づかなかった。
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「…すみません」
ぶつかった黒いパーカーの青年が、小声で謝ってきた。
フードを深々と被っていて、顔はほとんど見えない。
だけど。
その顔は…何処かで、見たことがあるような気がした。
その時。
「…!天音さん、あなた…!」
突然、ナジュ君が驚愕に目を見開いていて。
何かあったんだろうか。
「どうかしたの?」とナジュ君に聞こうとした。
でも、声が出せなかった。
「…えっ」
見下ろすと、自分の鳩尾に、彫刻刀みたいな細くて小さなナイフが、深々と刺さっていた。
かぷっ、と音がした。
喉の奥から、血の塊を吐き出した音だった。


