神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

俺には、この世で「三大・怖くて出来ないこと」がある。

一つ目は、アトラスがいる前で、シュニィの悪口を言うこと。

二つ目は、深夜に令月・すぐりの二人と戦うこと。

そして最後の三つ目が、イレース相手に苦情を入れることである。

この三つのうち、どれを選んでも間違いなく死ぬ。

それなのに、シルナはこの中の三つ目…イレースに苦情を入れることを、実際にやったというのか。

「シルナ…。お前、よくそんなことが出来たな…」

「う、うん。凄く怖かったんだからねっ?」

だろうな。俺だったら絶対無理。

命知らずにも程があるぞ。

この臆病、と言うかビビリチキンなシルナに、そんな度胸があったとは。

普段はビビリだけど、生徒の為となると勇気を出せるらしい。

さすが学院長だよ。

…で。

「…どうだった?」

「…私、必死に頼んだんだよ?」

シルナが、涙声で訴えた。

「それなのにイレースちゃん、こっちを見ようともせずに…。…『あら?寝言が聞こえたような気がしますね。…きっと気の所為ですね』って」

「…言いそう」

その時、イレースの眼光がギラリと光っていたであろうことは、想像に難くない。

「あんなこと言われたら、あれ以上何も言えないでしょ…!?」

「…まぁ…うん、そうだな…」

もう一度食い下がろうものなら。

「起きているのに寝言とは、学院長はおボケになられたんですね。大丈夫、老人ホームなら予約してますよ」とか言いそう。

絶対言うよ。イレースなら言う。

「シルナ…よく無事に帰ってこられたな」

「怖かったよ〜っ!!」

半泣きのシルナ。

シルナにしては、頑張って勇気を出した方だよ。

でも、世の中には、逆らっちゃいけない相手ってのがいるからな。

いくら学院長のシルナでも、元ラミッドフルスの鬼教官には勝てない。

「それで…結局、小テストから生徒を救うことは出来なかった訳か…」

「うぅぅ…。みんな、ごめんね〜っ!」

「無理もないけど…」

さすがに相手が悪いよ。

教育に真面目に取り組むことにおいて、イレースの右に出る者はいない。

むしろ、イレースに逆らって、シルナが無事に戻ってこられたことを喜ぶべきだろう。

黒焦げにされてもおかしくなかったぞ。

「仕方ないから、みんなでチョコを食べようと思って!」

「…なんでそうなんの?」

小テストとチョコを食べることと、何の関係が?

「小テストをなくすことは出来なかった…。だったら、少しでも小テストに対する抵抗をなくして、より楽に点数を取れるように努力するべきだと思うんだよ」

「…」

「そこで、小テストがある時は、その前にみんなでチョコを食べる。それによって集中力をあげて、しかも美味しいチョコのお陰で、幸せな気持ちになれる」

「…」

「テストは嫌だけど、その前に必ずチョコを食べられるなら、むしろテストが楽しみになるんじゃないかなーって!」

「…」

「ね?名案でしょっ?」

…そんな満面の笑みで聞かれても。

当然、「そのくらいでテストが嫌じゃなくなる訳ねーだろ!」って言いたいところなんだけど。

シルナがあまりに得意げなので、何だか言うに言えない雰囲気。