神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

あの人…『アメノミコト』の首領、鬼頭夜陰は、一体何を考えているんだろう。

あの人が何を考えているかなんて、分かった試しがないけど。

…でも、今僕が何をすべきか、それだけははっきりしている。

僕は、一瞬だけ目を閉じた。

その一瞬の中で、走馬灯のように、イーニシュフェルト魔導学院で過ごした日々が蘇った。

鬼頭夜陰の命令を受けて、偽名を使ってイーニシュフェルト魔導学院に潜入した。

イーニシュフェルトの聖賢者…学院長を殺す為に。

それなのに、彼らはとても優しかった。

僕が刺客だと知られた後も、その態度は変わらなかった。

むしろ、暗殺者である僕を救おうとしてくれた。

お陰で僕は、『アメノミコト』の暗殺者『八千代』としてではなく。

ただの黒月令月として、生きられるようになった。

そして…ずっと僕を嫌っていた『八千歳』とも、打ち解けることが出来た。

それが何より嬉しかった。

あのまま『アメノミコト』にいたら、いつまでも『八千歳』とは分かり合えなかっただろうから。

『八千歳』と分かり合えて良かった。

仲良くなれて、友達…に、なれて良かった。

それだけで、この国に来て良かったと思える。

…もう、充分だ。

充分だよ。

「…分かった。それなら、僕が戻る」

迷わなかった。

僕か『八千歳』か、どちらかが『アメノミコト』に戻らなければならないなら。

どう考えても、僕が戻る方が良い。

だって僕よりも、『八千歳』の方がこっちの世界で生きる才能がある。

そうだろう?

僕よりもずっと、こちらの生活に慣れるのが早かった。

ツキナと仲良くなるのも早かったしね。

それに、イーニシュフェルト魔導学院に残るなら、中途半端な魔法しか使えない僕よりも。

ちゃんと、色んな魔法が使える『八千歳』の方が遥かに有益。

僕には暗殺しか、人を殺すことしか出来ない。

だけど『八千歳』には、僕には出来ないことが出来る。

…きっと、僕より上手に生きられる。

だから、どっちかが戻らなきゃいけないなら、僕が戻る。

絶対その方が良い。

僕は、そう確信していた。

俺が一人犠牲になることで、『八千代』やツキナや、学院のみんなの命が守れるなら。

それは本望ってものだからね。

「僕が『アメノミコト』に戻る。…その代わり、『八千歳』には手を出さないで」

これで良い。

これで、僕の大事な人達を守れるんだから。

僕が一人不幸になるくらい…どうってことないよ。