神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

頭の中は、恐ろしく冷静だった。

…そう。…そっか。分かった。

イーニシュフェルト魔導学院で過ごした日々のことが、走馬灯のように蘇った。

学院長せんせーのこと、羽久せんせーのこと。

ナジュせんせーのこと、イレースせんせーのこと、天音せんせーのこと、マシュリのこと。

『八千代』のことと、そして…ツキナのことを。

あの学院で過ごした日々は、『アメノミコト』で過ごした日々に比べると、遥かに短いのに。

学院での日々は、『アメノミコト』にいた時よりもずっと長く、濃く…幸せな日々だった。

生まれて初めて、自分が「生きてる」って気がした。

人の命をたくさん奪ってきた俺が、初めて自分の人生ってものを生きた。

なんて幸運だったことか。

こんな経験が出来たのは、『アメノミコト』の中で俺と、『八千代』だけだ。

暗殺者として、ずっと死んだように生きていた。

そんな俺が、ほんの僅かでも、自分の意思で生きることが出来たのだから。

…大丈夫。

この思い出があるだけで、俺は生きていける。

もう充分だ。…この身に余るほどの幸せだった。

思い残すことは…いっぱいあるけど、でも、もう良いや。

俺と『八千代』のどっちかが暗殺者に戻って、どっちかがこれまで通り、イーニシュフェルト魔導学院の生徒として生きていけるのなら。

どう考えても、戻るべきなのは俺の方だ。

『八千代』には、日の光の下を生きる資格がある。

あの人、良い意味でも悪い意味でも無邪気だしね。

それに『八千代』は、ターゲットは殺しても、仲間は殺さなかった。

一方俺は、『玉響』を殺してしまった。

その罪を償う時が来たのだと思えば、何の抵抗もなく受け入れられる。

…『八千代』さえ残ってくれれば、ツキナのことも任せられる。

どっちかが帰らなきゃいけないのなら、俺が帰るよ。

それが一番正しい選択だ。

「…『八千代』は、本当に見逃してもらえるんだね?」

「勿論だ。鬼頭様はそうおっしゃっている」

「…あ、そ」

分かったよ。

俺が一人犠牲になることで、『八千代』やツキナや、学院のみんなの命が守れるなら。

それは本望ってものだからね。

「だったら、俺が『アメノミコト』に戻る。…その代わり、『八千代』には手を出さないで」

これで良い。

これで、俺の大事な人達を守れるんだから。

俺が一人不幸になるくらい、どうってことないよ。ねぇ?