神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「鬼頭様からの伝言を伝える」

憎々しげに、俺を睨みながら。

「花曇すぐり、『アメノミコト』に戻ってこい」

「…」

俺は、思わず言葉が出てこなかった。

…。

…。

…はぁ?

「…あの人、痴呆でも入ったの?」

それとも、俺の聞き間違いかなー。

『アメノミコト』に戻ってこい、って言わなかった?今。

「鬼頭様は本気だ」

「トチ狂ったとしか思えないねー。言うに事欠いて、戻ってこいとは」

絶対、何か裏がある。間違いない。

「戻れって言われて、俺が素直に『はいそうですか』って戻るとでも思ってんの?」

「それは私が判断することではない」

まー、そうだね。君はただ伝言を伝えに来ただけだし。

それどころか、『乙夜』のこの腹立たしそうな表情。

伝言を託された以上、一応伝えはしたけど。

『乙夜』の個人的な感情としては、俺に戻ってきて欲しくないことは、一目瞭然。

…一体あの男、何を考えているのか。

「俺を連れ戻してどうするつもり?裏切り者はこうなるんだ、って見せしめに殺すつもり?」

そうとしか考えられないね。

「私の知るところではない」

「あー、そう。だけどね、頭ごなしに『戻れ』って言われても、理由の一つも説明されないんじゃ、とても受け入れられないよ」

まぁ、とはいえ。

「仮に懇切丁寧に説明されたとしても、戻る気ないけどね」

「…何?」

眉を吊り上げる『乙夜』。

「鬼頭様の命令を無視すると?」

「俺、もう暗殺者じゃないし」

命令なんて聞く必要ないから。

俺は俺のやりたいようにやるよ。自分の意志で。

「別にいーよ。理由なんて説明してくれなくても」

どうせ、ろくでもないものだってことは確かだろうし。

裏切り者の俺を、見せしめの為に殺したい。…そんなところだろう。

…え?帰ってきて、また自分の為に働いて欲しいだけじゃないのか、って?

有り得ないね。

俺を駒としてしか見てなかったあの男が、俺の力を必要とするはずがない。

鬼頭にとって、俺の代わりはいくらでもいるはずだ。

みせしめとして殺す以外に、今更、俺の命に価値があるとは思えない。

「何考えてるのか知らないけど、俺は帰るつもりないから。そう伝えておいて」

ついでに、俺のことも『八千代』のことももう忘れてくれ、って言っといて欲しいんだけど。

…しかし。

「お前ならそう答えると思っていた。…だから、もう一つお前に伝えることがある」

「何さ?」

「お前が断れば、黒月令月…『八千代』を連れ戻すことになる、と」

「…何だって?」

自分のことなら、どうとでも笑い飛ばすことが出来る。

だけど、『八千代』の名前を出されたら、黙ってはいられなかった。

「鬼頭様は、『八千代』と『八千歳』、どちらか片方を連れ戻すことを望んでおられる」

「はぁ…!?」

「お前が素直に戻ってくれば、黒月令月からは手を引こう。だが断れば…お前の代わりに、黒月令月が『アメノミコト』に戻ることになる」

…何を、勝手なことを。

そういうことか。

「戻ってこい」なんて、俺が絶対聞くはずない命令を、恥ずかしげもなく伝えたのはこれが理由か。

『八千代』の命を天秤にかければ、俺が聞く耳を持つだろうと。

俺か、それとも『八千代』か。

残れるのはどちらかだけ。

もう片方は、あの忌まわしい『アメノミコト』に戻る。

…あぁ、そう。そういうやり方をするワケね。

『アメノミコト』は、俺がいた頃とまったく変わってないようで、逆に安心したよ。