神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

どんな時でも、何が起きても、冷静に、淡々と対処する訓練を受けていなかったら。

きっと、大声を上げて驚いていたところだろう。

俺は冷静に、周囲をぐるりと見渡した。

こんな山奥に街灯なんてあるはずがないし、懐中電灯すら持っていない。

それに、今夜は新月で、足元を照らしてくれる月明かりすらない。

それでも、長年暗殺者として訓練されてきた俺は、暗闇でも昼間と同じくらい、広い視野を持っている。

周囲を見渡しても、そこに『八千代』の姿はなかった。

…人の気配も、足音も、それどころか生き物の鳴き声すら聞こえない。

ただ、風で葉が揺れる音がするだけだ。

…『八千代』がいなくなった。

そう簡単に死ぬようなヤツじゃないから、心配はしてないけど。

彼が自分の意志で消えたんじゃないことは明らかだ。

まったく人の気配はしないけど、既に何らかの攻撃を受けている。と、思った方が良い。

俺はすぐさま臨戦態勢を取り、いつでも迎撃出来るように糸魔法を両手に絡ませた。

どうぞ。何処からでも。

すると。




「…久し振りだな。裏切り者」

木の上から、女の声がした。

…この女、知ってる。見覚えがある。

『アメノミコト』の、元暗殺者仲間だ。

しかも、俺と『八千代』と同じ…。『アメノミコト』の中でもエリート集団に分類される、『終日組』の暗殺者。

元々俺達暗殺は、同じ組織に所属していながら、仲間意識なんて欠片もなかった。

『アメノミコト』において、暗殺者は人間ではない。ただの道具だ。

だから、仲間を仲間と思ったことはなかった。任務を共にすることはあっても、協力するということはなかった。

仮に暗殺者仲間が死んでも、一度として心を痛めたことはなかった。

…ただ一人、『玉響』を除いては。