神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

イレースは病院着姿で、ベッドに腰掛けていた。

顔色は悪くなさそうだ。

「イレース…もう起きて大丈夫なのか?寝てた方が…」

「もう充分に休みました」

即答。

「とっくに通常業務に戻って良いはずなのに、この過保護保健教師の許可が降りないんです」

と、腹立たしそうに天音を睨んでいた。

ひぇっ、と怯えた声を出す天音。

可哀想に。完全に、蛇に睨まれた蛙じゃん。

「だ、だって…。もう少し、安静にしてなきゃ駄目だよ。そんなにすぐ魔力は回復しないんだから」

「全快でなくても、3〜4割も回復すれば正常に動けます」

「駄目だってば…。魔力が少ない時は、免疫も落ちてるんだから。大事を取らなきゃ」

「ちっ…」

イレースにビビりながらも、医師としてここだけは譲らない、という態度を貫く天音。

さすがだよ。

イレースに舌打ちされてるけど。

「天音…。お前も苦労してるな」

「イレースさんはまだ素直だよ…。ナジュ君だったら、『僕不死身なんで!』とか言って、内臓がはみ出てても動こうとするんだから…」

「そうか…。そういやそうだったな…」

あれに比べりゃ、まだイレースは素直だな。

少なくとも、天音がドクターストップをかけたら、ちゃんと従ってんだもん。

めちゃくちゃ不機嫌ではあるけど。

「ちょっと。なんか僕、とばっちり受けてません?」

うるせぇ。ほんとのことだろ。

…ところで。

「…何だよ、これ」

イレースの、ベッドの傍らに。

親切にも、誰かからお見舞いの品が届けられていたのだが…。

一つは、お面である。

以前も見たことがある、超グロテスクなお面。

鬼みたいな形相で、得体の知れない鳥の羽根や、こちらも正体不明の骨やらがあちこちについている。

「ひぇっ…」

ほら。ビビリのシルナが、またビビっちゃってるじゃないか。

「あ…。それ、令月さんが…昨日、手作りだって持ってきてくれて…」

と、天音が教えてくれた。

…やはり、ヤツか。

ジャマ王国では、病気や怪我で寝込んでいる人には、お見舞いとしてこのお面をプレゼントするんだっけ?

身体の中の病原菌が、このグロテスクなお面に恐れを為して逃げていくように、と。

こんなの見てたら、余計に具合悪くなりそうだけどな。

それから…。

「…こっちの大根は何?」

お面の隣に、何故か大根が3本、置いてあった。

ちゃんと葉っぱまでついている、立派な太い大根である。

その大根3本が、赤いリボンで束ねてあった。

で、何で保健室に大根が?

「これはすぐりさんが…。畑で採れたから、これ食べて元気出してって…」

「…それで何で大根持ってくるんだよ…」

そこは花とか…。花とかお菓子が普通じゃねぇの?

「今、冬ですからね。育つ作物の種類も限られるのでは?」

と、ナジュ。

成程。

それで、花束ならぬ…大根束を作って、イレースに届けてくれたんだな。

…気持ちは分かるけど、そこはやっぱり花にしてくれよ。

せめて調理してから渡してくれ。

ナマの大根、3本ももらったって。消費出来ねぇよ。

「今、冬休みでツキナさんがいないから、調理も出来ないんでしょうね」

「あ、そういうこと…」

「仕方ないですね。ではここで、ハイスペック家事男子の僕が、腕を振るってあげるとしましょう」

え?

ナジュは、スッと立ち上がり。

大根3本を持って、保健室を出ていった。

…あいつ、何処に行ったんだ?