神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

イレースは一週間前のキルディリア魔王国軍の襲撃の際。

敵魔導師と戦って、魔力を限界まで消費してしまったそうだ。

傍で一部始終を見ていた天音は、「あんな無茶をするなんて」と嘆いていた。

しかし、当のイレースは、相変わらず気丈であった。

死ぬほど疲れているはずなのに、ちゃんと自分の足で歩き、「疲れた」なんて一言も言わない。

放っておいたら、また何事もなかったみたいに職員室にこもって、仕事を始めかねない。

天音によってドクターストップが出され。

イレースは、医務室のベッドで天音に看病されている次第である。

天音曰く、イレースは三日ぐらいまるまる寝込み続けたそうだ。

一度に大量の魔力を消費してしまったら、そりゃそうなる。

今が冬休み中で、本当に良かった。

もし、いつも通り授業がある時だったら、イレースは無理を押して授業に出ていただろうから。

頼むから、こんな時くらい大人しくしててくれ。

イレースは普段、働き過ぎなんだよ。

シルナの20倍くらい働いてる。

たまにはゆっくり休んでくれ。シルナに仕事を押し付けて良いから。

「…何だか、羽久がじんわりと私に失礼なことを考えてる気がする…」

「それよりシルナ。お前、その手に持ってるものは何なんだ?」

「え?チョコケーキ!」

シルナは満面の笑みで答えた。

…あ、そう。

聞かなきゃ良かったと、今俺は心の底からそう思ってるよ。

「冬季限定、3層の濃厚チョコレートザッハトルテなんだ!」

「…ふーん…」

「生地にもチョコがたっぷり、更にチョコクリームを挟んで、グラサージュにもチョコをたっぷりと使った、贅沢なザッハトルテなんだ!」

「いや、聞いてないけど…」

「あぁ美味しそう!想像するだけでお腹空いてきちゃうよね!」

じゅるっ、と涎を啜るシルナ。

お行儀が悪い。

「これを食べれば、イレースちゃんもあっという間に元気になるよ!」

「…なるか…?」

「ってことで、お見舞い!お邪魔しまーす!イレースちゃん元気ーっ?」

俺の冷静なツッコミも聞かず、シルナはケーキ片手に、にっこにこで医務室を訪ねた。

すると、そこには先客がいた。

「あ、ナジュ…。それに天音も」

「あぁ、お二人共。来たんですね」

「いらっしゃい」

ナジュと天音の二人が、イレースのベッドの傍らの丸椅子に座っていた。

そして、そのベッドの上には。

「…相変わらず喧しいですね。医務室では静かにしなさい」

イレースが、じろりとシルナを睨んだ。

おぉ…。その毒舌、今ばかりは安心したぞ。