「えっ…ど、何処に行った?」

「転移魔法だ…。恐らく、もう校舎の外に逃げてる」

と、シルナ。

気がつくと、校舎を取り囲んでいた魔法の壁も消えていたし。

外にいたはずのキルディリア魔王国軍の軍勢も、既に沈黙していた。

…。

…乗り切った、のか?俺達。

そして、大ピンチだった俺達を救ってくれたのは…。

「…あんた…」

…一体、何者。

「…お前が、邪神の器か」

「えっ…」

彼はくるりとこちらを向き、じっと俺を見つめた。

俺のこと…知ってる、のか。

それにこの人…何だか、不思議な気配がする…。

何だろう…。何処かで、会ったことがあるような…。

俺はまじまじと、その青年を見つめてしまった。

すると、それを見たシルナが。

「…君が何者なのか知らないけど。助けてくれてありがとう」

と、まずは助けてくれたことへの感謝を述べた。

あ、そうだ。

助けてもらったんだから、礼を言わないと。

「助かったよ。ありがとう。…でも、あんた…」

「…俺のことは気にするな」

いや、気にするなって言われても気にするだろ。

一応、命の恩人だぞ。

「むしろ、俺のせいでお前達を巻き込んでしまった」

「え…?」

「済まなかった」

「…」

…助けてもらったのに、逆に謝られるとは。

「どういうことだ…?」

「…」

彼は答えなかった。

答える代わりに、そっと目を伏せ。

それから。

「お前は何も悪くない。お前も、我が姫も。ただ運命に選ばれてしまっただけだ」

「…何の話だ?」

「人として、人と共に生きろ。後悔のないように」

そう言って。

クロティルダと呼ばれた青年は、先程のイシュメル女王の転移魔法のように、スッと姿を消した。

…帰っちゃった。決め台詞だけ残して。

「…何だったんだ?」

「…分からない。けど」

けど?

「助かったよ、私達」

「あ…」

そうだった。

キルディリア魔王国軍は、イシュメル女王と共に、イーニシュフェルト魔導学院から撤退していった。

…助かったんだ。俺達。

少なくとも今、この場は切り抜けた。

俺もシルナも、ここに…このイーニシュフェルト魔導学院に残ることが出来るのだ。

それは、何よりも価値のあることのように思えた。