神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

こんな残酷な選択があろうか。

誰よりも仲間を想うシルナに…「仲間を助けたいなら投降しろ」と脅すなんて。

自分が断れば、仲間達はますます窮地に陥る。

それを助けたいなら、シルナは自分の身をキルディリア魔王国に捧げるしかない…。

…駄目だ。そんなこと、絶対に駄目だ。

「…私が首を縦に振れば、侵攻はやめてくれるんだね?」

「勿論じゃ。すぐに手を引こうぞ」

「っ、駄目だ、シルナ…!」

そんな奴の、口車に乗る必要はない。

それに、シルナが投降したからって、侵攻をやめてくれる保証は何処にも…! 

「おぬしは黙っておれ」

「っ…!」

イシュメル女王は、冷たい目でこちらを睨んだ。

「おぬしには聞いておらん。これはわらわと、聖賢者殿の取引じゃ」

「…シルナの…問題なら、俺の問題でもあるんだよ…!」

「ふん。半端者な神の器が、生意気なことを」

「…!」

…どうして、そのことを。

「羽久は半端者じゃないよ」

シルナは静かに、しかしきっぱりと、それだけは否定した。

「羽久は私の一番大切な宝物で、親友なんだ。悪く言わないで」

「ほう、そうか。それは悪いことを言ったの」

イシュメル女王は打って変わって、笑顔でそう答えた。

「いずれにせよ、二人揃って我が国に移り住んで良いぞ。魔導師ならば誰でも歓迎しよう」

誰が、あんな国に。

魔導師以外はお断り、って言ってるようなもんじゃないか。

そんな、平気で人を差別するような国、頼まれたって絶対住みたくない。

だけど…今の俺達に与えられた選択肢は、あまり多くはなかった。

仲間を…実質、人質に取られている状況では。

「さぁ、わらわの手を取るのじゃ。おぬしの大切な…仲間、とやらの為に」

と、イシュメル女王は不敵に微笑んだ。

「…」

シルナは黙って、少し考え。

「…私が投降したら、仲間達を助けてくれるんだね。そう約束してくれるね?」

再度、一番大切なことを念押しした。

「あぁ、勿論じゃ。神々に誓おうぞ」

そんなものに誓われたって、全然説得力がない。

だけど…今はその口約束を信じるしか無かった。

「…分かった。投降する」

「…っ、シルナ…!」

「大丈夫だよ。…永遠に会えなくなる訳じゃないし、それに羽久が一緒にいてくれるから」

シルナは俺を安心させようと、無理にでも微笑んでみせた。

本当は、誰よりも泣き出したいはずなのに。

「私がいなくても、イレースちゃん達がいてくれれば…イーニシュフェルト魔導学院は守られる。安心して託すことも出来る…」

「だけど…でも、この学院には、お前が…」

「私は失いたくない。失う訳にはいかないんだ。君も、学院も、仲間達も。みんな」

「…」

それらを、全部守る為に。

シルナの大切なものを守る為に、シルナ自身は犠牲になっても構わない、と?

そんな矛盾したことが…。

「だから、これ以上私の大切なものを傷つけないで」

「ふむふむ、良いじゃろう。良い決断じゃ、英断だったぞ聖賢者殿。さすがじゃ」

イシュメル女王は、満足げに頷いた。

…畜生。

こんな小癪な女の…言われるがままになるしかないなんて。