神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「さぁ、いい加減わらわの手を取るのじゃ」

「…」

シルナは、負傷した俺を庇いながら、イシュメル女王と向き合った。

まさか…女王が自ら、ここまでやって来るなんて。

…情けない。俺が、こんな下らないことで怪我をしていなければ…。

「賢いおぬしなら、もう分かっておるじゃろう」

イシュメル女王は、シルナに手を差し伸べながら言った。

「ここでおぬしが断れば、どうなるかということを」

「…」

…何だと?

「先程の地震も、この建物を覆う壁も、わらわの軍が起こしたものじゃ。気づいているじゃろう?」

「…勿論」

この女、いけしゃあしゃあと…。

「お前…ふざけるなよ。こんなことして、ただで済むと…!」

「それを決めるのはわらわじゃ。今のおぬしらに何が出来る?」

「…」

それを言われると…言い返す言葉がないが。

「壁の外では、わらわの軍指折りの魔導師達が、おぬしらの仲間を襲撃しているはずじゃ」

「…っ、お前…!」

イレースや天音やナジュ達に、何を。

まさか…あいつらを。

俺は怒りのあまり、一瞬痛みを忘れ、イシュメル女王に食ってかかった。

もう、相手が他国の女王だとか、そんなことは関係ないし、どうだって良かった。

「おぬしらの仲間は強い。それは認めよう。だが、所詮は個人の強さよ。魔力も体力は無限ではないし、そして魔法は万能ではない」

「…」

「軍という単位で攻められれば、いずれは落ちる。おぬしらに抗う術はない」

言い返せなかった。

確かに、俺の仲間達は強い。

俺は今…情けなくも本棚に押し潰されて、怪我をしてみっともない姿を晒しているが。

仲間達はきっと、この高い壁の外で戦っているはずだ。

彼らが今…どんな敵と、どんな魔法を使う敵と戦っているのか。

もしかしたら…窮地に陥っているかもしれない。

一対一の戦いであれば、彼らが負けるとは思わない。

だけど…もし、敵の魔導師に束になってかかってこられたら。

イシュメル女王の言う通り、魔力も体力も、そして気力も…無限に続くものじゃない。

果たして、いつまで持ち堪えられるか。

もし彼らに限界が来てしまった時、どうなるのか。

それを考えると、俺は自分の命が失われることよりも遥かに恐ろしかった。

…それだけは、絶対に駄目だ。

そしてシルナもまた、俺と同じことを考えているはずだった。