神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

そこにいたのは。

「…!イシュメル女王…!」

キルディリア魔王国の女王、イシュメル・ラニア・キルディリアその人だった。

「どうして…あなたが、ここに…」

「さて…どうしてじゃと思う?」

答えなくても分かった。

その時俺もシルナも、ようやくこの地震が自然災害ではないと理解した。

これが…キルディリア魔王国軍の敵襲なのだと。

「あなたが…」

シルナは怒りを滲ませた声で、イシュメル女王を睨んだが。

イシュメル女王は相変わらず、扇で口元を隠しながら、優雅に微笑んでいた。

「おぬしらが悪いんじゃよ。あれほど言っておいたのに…勝手に出ていくのだからな」

「…勝手に私達をキルディリア国民に仕立て上げようとしたあなたが、それを言うの?」

「先に裏切ったのはおぬしらじゃ。まさか、手駒をキルディリア国内に送り込んでいたとはな」

「…」

…手駒。

キルディリア脱出を手伝ってくれた…ジュリスとベリクリーデのことか。

イシュメル女王は、シルナが指示して、ジュリスとベリクリーデをキルディリア魔王国に送り込んだと思っているようだ。

だが、ジュリスとベリクリーデがキルディリアに来たのは、シルナの意思ではない。

結局、あの二人が何の為にキルディリア魔王国に来ていたのか、俺達にはまだ分からない。

あれは、単なる偶然だ。

ジュリスが、俺達がいつの間にか、キルディリア魔王国に亡命したことになっていると知って。

危険を冒して真偽を確かめに来て、そして危険を冒して俺達を逃がしてくれた。

あの二人は今頃、どうしているだろう?無事なんだろうか。

…だが、今は他人の心配をしている余裕はなさそうだ。

「わらわが直々に、迎えに来たぞ。さぁ、我らの新たなる故郷に戻ろう」

…何が故郷だ。

「私の故郷はここだよ。守るべき場所も、帰るべき場所もここだ」

シルナは、はっきりとそう言った。

「だから絶対に、私はキルディリア魔王国には行かない。君達こそ帰ってくれないかな」

「…そうか。穏便に済ませたかったのじゃか…。残念じゃ」

何?

「では、自らの大事な居場所が、我らの魔導の力で灰になるところを…その目で見るが良い」

そう言って、イシュメル女王は不敵に微笑んだ。