神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ただでさえ…運動不足だもんな、シルナ…。

イレースにいつも「パンダ」と呼ばれているだけのことはある。

「はぁはぁ、羽久が。私に、し、失礼なことをっ、はぁはぁ。考えてる気がする〜っ!!」

「…お前には無理だよ…この重さ…」

俺にだって、多分無理だよ。

いくら火事場の馬鹿力があったとしても。限度ってものはある。

「俺のことは、気にしなくて…良いから。早く…イレース達のところに…」

「そんなこと出来ないよ!」

珍しく、シルナは怒ったような口調で言った。

「羽久を置いていくなんてこと、絶対出来ないから。絶対しないからね!」

…駄々っ子かよ…。

だけど、立場が逆だったら…俺も同じことを言っていたと思う。

「大丈夫だよ、必ず助けるから」

「でも…どうやって…」

「ど、どうしよう。どう…。…あ、そうだ」



「羽久、ちょっと動かないでね。えぇと、杖、杖…」

シルナはポケットを探って、愛用の杖を取り出し。

俺に向かって…いや、正しくは、俺の上に倒れている本棚に向かって。

「yravitg」

とある魔法を発動した。

途端に、俺の上に重くのしかかっていた本棚が、羽毛のように軽くなった。

えっ…。

「これで良し!」

シルナは、軽くなった本棚を、スッと退かしてくれた。

ようやく、苦しかった呼吸が少し楽になった。

シルナが何の魔法をかけたのか分かった。

重力魔法だ。

重力魔法で、本棚の重さを鳥の羽根のように軽くして、本棚を退かしてくれたのだ。

「羽久!大丈夫…!?立てる?」

「あ、あぁ…」

俺は、自由になる右手で床に手をつき。

軋む身体を起こし、何とか立ち上がろうとしたのだが…。

「っ…!」

「羽久…!」

左腕が、ズキズキと激しい痛みを発していた。

見ると、肩の付け根の方から、雑巾でも捻ったように変な方向に曲がっていた。

あぁ…成程、痛みはコレのせいか…。

「腕が…羽久…」

「…大丈夫だ。腕以外は何ともないから」

左腕を庇いながら、俺はよろよろと、何とか起き上がった。

さながら、生まれたての子鹿のよう。

シルナに肩を貸してもらいながら、ようやく起き上がることが出来た。

「大丈夫じゃないよ…!ごめんね、私を庇って、こんな怪我を…」

「仕方ないだろ…。気にするな、身体が勝手に動いただけだから…」

俺が庇わなかったら、この怪我をしていたのはシルナだったのだ。

あるいは、もっと酷い怪我をしていたかもしれない。

だったら、俺が痛い思いをするくらい、何でもない。

「すぐに回復魔法をかけてあげるから…!」

「おぉ…。…宜しく」

シルナは杖を手に、俺の負傷した腕に回復魔法をかけようとした。

…しかし、その時。




「お揃いのようじゃな。聖賢者殿。そして羽久・グラスフィアよ」

「…!」

突如として聞こえたその声に、俺とシルナは振り返った。