神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ーーーーー…時は、少し遡る。

イーニシュフェルト魔導学院の校舎、学院長室では。





「…っ…」

「い…いたた…」

突如、校舎に大地震が起きた。

この時は、俺もシルナも、この地震が人為的に…魔法で作り出されたものだとは思っていなかった。

それどころか、俺は…。

「いてっ、いたた。腰が…」

俺に突き飛ばされたシルナは、年相応のご老人のように、尻餅をついてさすさすと腰を擦っていた。

「羽久が私に失礼な、って、羽久っ!?」

「…シルナ…。…無事か…?」

シルナは、尻餅をついて腰を若干痛めただけで済んだが。

俺はそれどころではなかった。

「わ、私は大丈夫だけど…。それより、羽久の方こそ大丈夫!?」

「あ…あぁ…。大丈夫だ…」

「って、大丈夫な訳ないでしょ!今助けるから!」

俺は、本棚の下敷きになっていた。

学院長室の中には、俺の背丈よりも高い大きな本棚が、壁沿いにいくつも並んでいる。

そのうちの一つが、地震のせいでシルナに向かってぐらりと倒れるのを見て。

俺は咄嗟にシルナを突き飛ばし、助けた…のは良いが。

代わりに、俺がその本棚の下敷きになってしまった。

なんて情けない。

本棚から零れ落ちた本や、シルナ秘蔵のチョコやらにまみれながら。

本棚に身体を挟まれて、みっともなく身を捩らせるしかないとは。

何とか、自力で這い出そうとしたが…。

「…っ…!」

左上半身、特に肘から肩にかけて、鋭い痛みを感じた。

自分のものじゃないみたいに、動かそうと思ってもぴくりとも動かない。

これは…左手、持っていかれたか…?

本棚に潰されてて見えない。

「羽久!何処か怪我してるの!?」

シルナが血相を変えて、駆け寄ってきた。

「…大丈夫だ…。この、程度…」

強がってはみたが、自力では起き上がれそうになかった。

…どうやら、勢いよく倒れてくる本棚に、したたかに打ち付けてしまったらしい。

だけど、俺はホッとしていた。

良かった、と思っていた。

シルナが怪我してなくて良かった。

俺とシルナのどちらかが怪我をするなら、どう考えても、俺が怪我した方が良いに決まってるからな。

しかし、シルナは激しく狼狽していた。

「大丈夫だから、羽久。今すぐ助けるから!」

「…い…良いから、お前は…イレースや、ナジュ達のところに…」

あいつらは無事だろうか。

ナジュは不死身だから、多分大丈夫だと思うけど。

他のメンバーは…。

「まず君を助けるのが先だよ!ちょっと待ってね、今、本棚を退かすから…」

と言ってシルナは、俺の上に覆い被さるように倒れた本棚に取り付き。

「ふ〜んっ!!」

渾身の力で、本棚を起こそうとしたけれど。

分厚く重い本棚を、非力なシルナが持ち上げられるはずがなかった。