神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

遊ぶ趣味はない。そろそろ終わりにしよう。

僕は、ちらりと『八千歳』の方を向いた。

『八千歳』もまた、僕と同じことを考えていた。

僕らは視線だけで互いの意思を確認し、僕は勢いよく地面を蹴った。

愚直に、真っ直ぐに前に飛ぶ。

「っ…!mtors!」

また風魔法。

だけど、その間合いは既に、完全に把握している。

『八千歳』の糸が僕を弾き飛ばし、風魔法の軌道から逸らす。

大きく右手の小太刀を振りかぶると、敵の上級魔導師は、躱そうと身を逸らした。

それで良い。小太刀はフェイントだ。

僕は右手で小太刀を振りながら、左手で懐からクナイを取り出した。

ちなみにこのクナイ、自分で研いで作った。

そのクナイを、敵の首筋めがけて投擲した。

「…つ!?」

小太刀の攻撃を躱した敵は、続いて飛んできたクナイからも逃げようと、身体を捻らせたが。

避けることに必死になるあまり、足元がお留守になってる。

その隙を、当然『八千歳』は見逃さなかった。

足元に、透明な糸がピンと張られてることに、敵魔導師は気づかなかった。

「あっ…!?」

その透明な糸に躓き、身体が前につんのめった。

体勢を崩すと同時に、僕が投擲したクナイが、彼女の首筋に傷をつけた。

クナイは直撃しなかった。ほんの少し、首筋を掠っただけだ。

敵魔導師は慌てて体勢を立て直しながら、急いで怪我をした自分の首筋に手を当てた。

喉元を貫かれると思ったのだろう。

実際はほんの少し掠めただけで、大きな傷ではない。

「ざ…ざまを見なさい…。は…。は、外したわ…?あはは…」

「…」

「お…同じ手は食わないわよ」

勝ち誇ってるようだけど、それは大きな間違いだ。

僕はわざと、敢えて少し軌道を逸らしたのだ。

ほんの少し掠めるだけで、充分だから。

「わ、私はお前達暗殺者になんか、あ、あれ?」

がくん、と。

キルディリア魔王国軍の上級魔導師は、その場に崩れ落ちた。

「な…なん…で、から、だ…が…」

「…効いてきたみたいだね」

毒だ。

クナイには、僕が自ら原料を採取して調合した、麻痺毒が塗ってある。

指先に塗るだけで、1分ほどで身体全体が麻痺する。

首筋などの太い血管がある箇所に塗布すれば、効果はものの数秒で現れる。

「君達は、魔法は得意なんだろうけど。魔法以外にも敵を無力化する方法は、いくらでもあるんだよ」

ってことを学ぶ、良い機会になったね。

魔法は確かに便利だ。使えたら、凄く有利になる。

でも、万能ではない。

そのことを、僕はよく知っている。

「大丈夫だよ。半日くらいは身体、動かないけど、明日になる頃には戻ってると思うよ」

「『八千代』の毒で良かったねー。俺の毒魔法だったら、一生寝たきり生活になるところだったよ」

と、笑いながら言う『八千歳』。

毒の扱いは、『八千歳』の方が得意だもんね。

「ど…毒、なんて…。ひきょう、な…」

…それが遺言?つまらないね。

「卑怯な手段なんてないよ。…勝つ為に必要なことは、全て正攻法だ」

魔法で華々しく散ろうが、豆腐の角で頭をぶつけて死のうが。

死ぬことに変わりはない。それと同じ。

君は負けた。僕達が勝った。…事実はそれだけだ。