ーーーーー…丁度その頃。

学生寮付近で行われていた戦闘も、そろそろ決着がつきそうだった。





「くっ…!」

「遅いよ」

僕の小太刀の刃が、またしても敵上級魔導師の身体に届いた。

肘から下の部分を、スパッ、と切り裂いた。

敵魔導師の血が宙を舞う。

…切り落としてやるつもりだったのに、身を捻って避けたか。

それくらいの余裕は、まだあるらしい。

だけど…僕の刃が届き始めた。

そろそろ蹴りがつきそうだ。

「この…薄汚い、暗殺者が…!」

「君はそれしか言えないの?」

口程にもない、とはこのことだよ。

確かにさっき、僕はこの人の風魔法に吹き飛ばされ。

おまけに学生寮の壁にぶつかって、痛い思いをしたけど。

でも、今は既に形勢が逆転している。

僕と『八千歳』が組んでいるのだから、当然と言えば当然である。

敵にとっては、この状況は明らかに想定外だったようだ。

子供相手。ジャマ王国の薄汚い元暗殺者。

しかも、ろくに魔法さえ使えない僕に、良いようにやられるのは、プライドが許さないのだろう。

敵は絶対に、自分の不利を認めなかった。

それどころか。

「ちょこざいな…!喰らえ!」

不利になった戦局を打開しようと、彼女は再び、強烈な風魔法を飛ばしてきた。

これに当たったら、僕はまたしてもふっ飛ばされるところだ。

しかし、僕は避けなかった。

避ける必要がないからだ。

何故なら、敵の風魔法よりも、『八千歳』の糸の方が速い。

『八千歳』は糸を伸ばし、僕を上空に弾き飛ばした。

敵の風魔法は、文字通り空を切った。

「っ、避けた…!?っ…!!」

僕は小太刀を振りかぶり、落ちてくる勢いのまま小太刀を振るった。

敵は避けようとしたけれど、避けきれず、再び身体に刀傷を作った。

「うぅっ…!い、痛い…!」

ちょっと切れただけなのに、大袈裟な。

「こんな…私にこんなことをして、許されると思うな!」

「知らないよ、そんなこと」

君が何者かなんて、僕にとってはどうでも良い。

これは戦いなんだから、命の奪い合いなんだから。

過程なんてどうでも良い。最後に立ってた者が勝ち。生き残った方が勝ちなのだ。

「さっきまでの余裕はどーしたのさ?薄汚い暗殺者に、良いようにやられちゃってるけど」

『八千歳』が、再び両手に糸をひゅんひゅんと絡ませた。

「それとも、良いのは威勢だけなのかな?」

煽っていくスタイル。

だけど、これは敵を馬鹿にしているのではない。

『八千歳』の戦略だ。

挑発して、冷静さを失わせる。

冷静さを失えば、敵の行動はより単純になり、より読みやすくなる。

敵の攻撃を絡め取り、糸の中に巻き取り、そして首を取る。

『八千歳』の、暗殺者としての策略だった。