神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…だけど。

魔導師ばかりが幅を利かせるキルディリア魔王国で、魔導適性を持たない国民が、どんな扱いを受けるのか。

想像しただけで、良い未来が見えないが…。

「…聞くところによるとキルディリア魔王国では、非魔導師の国民は…二等国民として扱われるそうです」

シュニィが、固い表情で答えた。

あぁ…。…やっぱり。

「日常の生活や行動も、大きく制限されて…。結婚や職業選択の自由もない、とか…」

「…なんてこと…」

もうこれだけで、天音さ絶句していたが。

「それだけならまだ良いでしょう」

イレースが淡々と告げた。

「良いって…何が?何も良いことなんて…」

「これはあくまで噂ですが、キルディリア魔王国では、魔導適性の有無によって、親が我が子を処分する例もあるそうです」

「えっ…!」

「そして、それは罪に問われないとか」

「っ…!」

これには、天音だけでなく、シルナや、シュニィも言葉を失っていた。

俺だって、酷く気分が悪くなった。

…なんて酷いことをするんだ。

生まれた子に魔導適性がないことが分かったからって、親が我が子を手に掛けるなんて…。

この話だけでも、キルディリア魔王国で、魔導師がどれほど幅を利かせているか分かる。

キルディリア魔王国は、魔導師至上主義なのだ。

非魔導師には、普通に生きる権利さえ与えられないほどに…。

「なんて酷いことをっ…。魔導適性がないからって、そんな…。自分の子でしょう…?」

「…シュニィ…」

この話に、一番心を痛めていたのは、このシュニィである。

…当然だ。

シュニィにも二人の子供達がいる。

二人共まだ幼く、魔導適性の有無ははっきりと分からない。

ルシェリート夫妻の場合、母親であるシュニィは魔導師だが、父親のアトラスは魔導適性を持たない非魔導師だ。

魔導適性があっても、なくても、どちらでもおかしくはない。

シュニィに似れば魔導適性があるだろうし、アトラスに似れば魔導適性はないだろう。

でも、そんなことはどうでも良い。

どうでも良いことだ。シュニィにとっても、アトラスにとっても。

子供達が魔導師だろうと一般人だろうと、どちらでも構わない。

二人にとって大切なのは、子供達が元気に大きくなってくれること。これだけだ。

…と言うか、大抵の親にとっては、そうなんじゃないか。

俺は親じゃないから分からないが。

子供に魔導適性があっても、なくても…。自分の血を受け継いだ我が子であることは、紛れもない事実。

それなのに…魔導適性がないからって、我が子を殺すなんて…。そして、そのことが罪に問われないなんて…。

…シルナが、キルディリア魔王国の学院長にならなくて、本当に良かった。

アーリヤット皇国みたいな、反魔導師国家に住むのも嫌だが。

魔導師至上主義で、一般人の基本的な人権さえ守られないキルディリア魔王国に住むなんて、絶対御免だ。

「自分の子でも、そうでなくても…。魔導適性がなければ、魔導師でなければ、あの国ではまともに生きる権利がないんですよ」

「…そんな…酷い…」

…本当に酷い。俺もそう思う。

そして、そのキルディリア魔王国の、非魔導師に対する冷酷さが。
 
そのまま刃となって、アーリヤット皇国に襲い掛かったのだ。