神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

それにさ、多分シルナも、何かしてなきゃ落ち着かないんだと思うよ。

気持ちは分かる。
 
キルディリア魔王国軍がいつ、このイーニシュフェルト魔導学院までやって来るか、って。

考え出したら、気が気じゃないもん。

現在イーニシュフェルト魔導学院には、俺とシルナ、イレース、天音、ナジュ、マシュリ、そして元暗殺者組、といういつもの学院メンバーと。

聖魔騎士団から、応援としてキュレム、ルイーシュ、無闇の3名が、学院に駐在してくれている。

この三人は、聖魔騎士団でも屈指の戦闘力を持っている。

助っ人としては、非常に頼もしい。

…まぁ、ルイーシュは…やる気なさそうだったけど。

ルイーシュよ。一応ここ、お前の母校だぞ。守る為に頑張ってくれ。

そして俺も、仲間に守ってもらうばかりではいられない。

自分の居場所は、仲間は、自分の手で守らなくては。

その為に、出来ることは何でも…。

「…ねぇ、羽久」

「ん?」

「私達なら負けることはないと思うけど、もし…もし万が一のことがあったら」

シルナは、くるりとこちらを振り向いた。

何事もなかったように、微笑んで。

「一緒に、キルディリア魔王国に行ってくれる?」

「…シルナ…」

…お前、チョコを詰めながら、そんなことを考えてたのか。

万が一のこと…か。そんなの考えたくもないが…。

でも、戦なんだから、勝つこともあれば負けることもある。

だから、負けた時どうするのかについても…考えておかなければならない。

特にシルナは、皆の命を預かる身だから。

引き際というものは、シルナもよく考えていることだろう。

もし万が一のことがあったら、自分が大人しくキルディリア魔王国に引き渡されることによって、事態の収束を図る。

仲間の誰かの命が失われることになるより、その方がずっとマシだから。

そう考えているのだ。…シルナは。

何が何でも、意地でも、最後の一人になってもルーデュニア聖王国に居座る、とは言わないのがシルナらしい。

仲間を守る為なら、自分がどうなっても構わないと…。

シルナがそのつもりなら、俺もシルナと同じ方向を向く。

だけど…。問題は。

「キルディリアが…イシュメル女王が必要としてるのは、俺じゃなくて、お前だけだと思うぞ」

俺はおまけ、ただの付随品だ。

イシュメル女王にとって、俺なんて何という価値もない者だろう。

シルナに比べればな。

「そうかもしれないね。でも…私は、一人でキルディリア魔王国に行くのは嫌だから」

「…」

「羽久が傍に居てくれれば、最悪…何処に居ても、私はきっと笑える。だけど羽久が居なかったら、私は笑えないよ。…どんな楽園に連れて行かれても」

…そうだな。

逆の立場だったら、きっと俺もそう思うだろう。

「だから…もしもの時は、私と一緒に来てくれないかな」

「…分かった」

良いよ。勿論。

俺だって、いくら仲間達に囲まれていても。

そこにシルナが居ないんじゃ、意味がない。

だったら仲間が居なくても、俺はシルナの居るところに行くよ。

そのことに、きっと後悔はない。