神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

天音は決戦に備えて、たくさんの消毒液や包帯、ガーゼなどの医薬品を買い集め、備蓄していた。

ナジュは、そんな天音の手伝いをしていた。

令月とすぐりは、ひたすら学院内に罠を張っていた。

イーニシュフェルト魔導学院が、段々とからくり屋敷みたいになっていく。

マシュリは猫の姿で、絶えず学院周辺をパトロール。

もし敵がやって来たら、すぐ俺達に知らせられるように備えてくれていた。

イレースは…。…何事もなかったように、職員室で三学期の授業計画の準備を進めていた。

曰く、「私達が戦争をしていようがしていまいが、三学期は予定通りに来ます」とのこと。

何処までも現実的なのが、実にイレースらしい。

まぁ、キルディリア魔王国軍の戦争なんて、生徒達には関係のないことだもんなぁ。

…で、シルナが何をしているのかと言うと。

さっきも言った通り、チョコ菓子の詰め合わせを作っている。

大きめのビニール袋に、色んな種類の個包装のチョコ菓子を詰め込んでいる。

これでもかと。ありったけ。

ごめん。俺、戦争なんてしたことないから知らないんだけどさ。

チョコなんて、要るの?

「シルナ…。お前、さっきから何やってるんだ?」

「え?」

え、じゃなくてさ。

「あのね羽久、戦いにおいて、兵站っていうのは凄く大事だと思うんだよ」

突然語り始めた。

「そりゃまぁ…大事だけど…」

「非常事態だからって、シリアルバーとか缶詰だけの食事は良くない。味気ないものしか食べてなかったら、士気も上がらないでしょ」

「…」

おっしゃることは最もなのだが、俺達、全員魔導師だからさ。

食事は特に必要ないんだが。

それに、そんな補給が必要になるほど長期戦になるとは思えない。

短ければ数時間…長くても数日で決着は着くだろう。

…チョコなんか食べてる暇、あるか?

つーか士気を高めたいなら、チョコだけっていうのはむしろ逆効果なのでは…?

もっと、こう…。肉とかさ。米とか。

そういう、エネルギーに直結しそうな食べ物を食べるべきなのでは?

何で糖分に極振りだよ。

「そこで、みんなの士気を高める為に、みんなにチョコを配ろうと思って!」

そんな、「これぞ名案!」みたいに言われても…。

「心を落ち着ける為にも、元気を出す為にも、やっぱりチョコが一番だよ。何ならキルディリア魔王国軍の人達にも、チョコをあげたら、戦いなんてやめてくれるかもしれない」

「…」

チョコレートで世界平和を目指す男、シルナ。

本当に、チョコレート一つで和解して帰ってくれる、物分かりの良い奴らだったら、話は早かったんだけどなぁ。

「みんなに元気を出してもらう為にも、いっぱいチョコを用意しておかないと…」

と言って、シルナは更に、新しいビニール袋にチョコ菓子を詰め始めた。

また新たに作ってる…。…俺達、一体何個あれを食べれば良いんだ。

絶対、用意するものを間違えていると思うんだが。

何だかもうツッコむ気も失せたので、好きにさせておこうと思う。