ナジュの考えた作戦は、こうだ。

「まず、フユリ様にはキルディリア魔王国に対して、こう言ってもらいます。キルディリア魔王国に亡命するか、ルーデュニア聖王国に留まるかは、学院長と羽久さんの自由意志に任せる、と」

「は…?」

「本人達に任せてるので、私は全く関係ないし、ルーデュニア国民にも全く関係ない。学院長を連れて行きたきゃ勝手にしろ、戦争なんてするつもりはない、と言い張ってもらいます」

「い、いやいやいや…」

ちょっと待てって。そりゃ無理だよ。

フユリ様がそんな無責任なこと、言うはずがないじゃないか。

「あくまで、学院長のこととルーデュニア政府は無関係だと主張します」

「そんなことして、マジでキルディリア魔王国軍がシルナを取り返しに来たらどうするんだよ…!?」

「だから、そうさせるんですよ」

はっ…!?

「水際で食い止めるのではなく、むしろこちら側に引き込みます。学院長がいる、このイーニシュフェルト魔導学院に」

「成程ー。無血上陸させるワケね」

「そうです、すぐりさん」

む、無血上陸って…。

それじゃ、キルディリアの思惑通りじゃ…。

「キルディリア魔王国軍とて、無駄な犠牲を出すことは望んでいないはずです。本気でルーデュニア聖王国と全面対決したらタダでは済まないって、分かってるでしょうから」

「そ、それはそうだろうけど…」

「勿論、その間出来る限り、周辺住民を避難させましょう。それなら良いでしょう?」

良いのか?

「で、キルディリア魔王国軍は一切抵抗を受けることなく、イーニシュフェルト魔導学院に辿り着くでしょう」

「それってヤバくないか…!?」

俺達、四面楚歌じゃん。

「えぇ、まぁヤバいですけど。キルディリア魔王国と睨み合ってるこの状況も既にヤバいんで。今更ですね」

そうだけど。

「ですが、だからこそ戦いやすくなるってもんです」

「あ、そうか…。籠城戦を仕掛けるんですね?」

「その通りです」

シュニィの質問に、ナジュが頷いた。

籠城戦…。

「戦場の範囲を、この学院の中だけに限定する。その方が守る範囲が少なくて済みますからね」

「…そうか…」

今は冬休み中で、生徒達が学院内にいない。

生徒達を巻き込む心配はないのだ。これは大きい。

「学院内で戦うのは良いね。こっちのホームだし」

「この学院、罠もたくさん仕掛けてるしねー」

令月とすぐりが言った。

俺としても、どうせ争いが避けられないなら、勝手知ったるイーニシュフェルト魔導学院の方が良い。

「のこのこやって来たキルディリア魔王国軍を、このイーニシュフェルト魔導学院で返り討ちにしてやりましょう、という作戦です。…どうですか?」

「…」

どうですか、って…。

…正直、驚いたよ。

「よく思いついたな、そんな作戦…」

「あはは。褒めてもらって光栄ですが、これは僕の作戦じゃないですよ。故郷で戦争やってた頃、似たような作戦を行ったことがあるので。その受け売りです」

「あ…」

そうだったのか。

それは…悪いことを思い出させてしまった。

「気にしなくて良いですよ。この中でまともに戦争やったことあるのは僕だけですから。こんな時くらい役に立ちますよ」

こんな時、って何だよ。

いつも役に立ってるじゃないか、お前は。