神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ーーーーーー…キルディリア魔王国が突然、ルーデュニア聖王国に最後通牒を突きつけてきた。

そのニュースを、俺とシルナは、聖魔騎士団からやって来たシュニィと無闇に聞かされた。

曰く、キルディリア魔王国の女王イシュメル・ラニア・キルディリアは、ルーデュニア聖王国に対し。

「今すぐ、不当に連れ去った我が国の国民を返せ。拒否する場合、武力行使も辞さない」という、断固とした最後通牒を突きつけてきたそうだ。

言ってることの意味がまったく分からない。

ルーデュニア聖王国が、キルディリア魔王国の国民を不当に連れ去った?

一体何のことだ。根も葉もない言いがかりである。

しかし。

シュニィと無闇の説明によると、キルディリア魔王国側が「不当に連れ去った我が国の国民」と主張しているのは。

なんと、俺とシルナのことだった。

俺達はキルディリア魔王国に滞在中、許可なく勝手に、キルディリアに亡命したことにされていた。

それで、俺とシルナは自分達の意思に関係なく、勝手にキルディリア魔王国の国民、ということにされてしまったのだ。

何が「不当に連れ去った」だ。ちゃんちゃらおかしい。

不当に国の中に閉じ込めようとしたのは、そっちじゃないか。

ともかく。

勝手にキルディリア魔王国を脱出して、逃亡されたことに気づき。

怒り心頭に発したイシュメル女王が、俺達に下した報復が、これだ。

俺達は、形振り構わずにキルディリア魔王国を脱出した。

だからイシュメル女王も、最早シルナを手に入れる為に、形振り構わないということだ。

…こうなったのは、俺のせいだ。

俺とシルナが、キルディリア魔王国を無理矢理脱走してきたから…。

「…それで、シュニィ。フユリ様はなんて…?」

「キルディリア魔王国の言い分には、断固として反対しています。学院長先生も羽久さんも、ルーデュニア聖王国の民であると」

そうか。…この期に及んで、庇ってくれようとするのか。

俺とシルナ、二人を引き渡しさえすれば…それで事態は落ち着くというのに。

「何があっても、自国の民を他国に売り渡したりしない。フユリ様はそうおっしゃっていました」

「…そうか」

フユリ様の気持ちは嬉しかったが。

俺の心の中は、大きく揺れ動いていた。

ルーデュニア聖王国を戦火に巻き込まない為に、俺達が出来ることは何だ?

俺達が大人しく、キルディリア魔王国に帰れば…。

と、俺が考えていると。

「…あなたもしかして、馬鹿なこと考えてるんじゃないでしょうね」

イレースが、ジロリと俺を睨んでそう聞いてきた。

ぎくっ…。

「べ、別に…そんなこと…」

「勝手に出ていこうなんて考えないことですね。居なくなられたら困るんですよ」

「…イレース…」

ありが、

「あなたがいなくなったら、誰が時魔法の授業を担当するんですか。ただでさえ一ヶ月も遅れてるのに」

「…」

そっちか。…そっちね。

イレースはそういう奴だった。うん。

良いよ、別に。どんな理由があれど、俺がここで必要とされてるってことだから。