神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

後のことは、大体予想出来るだろう。

島に送り込まれた魔導師達は、その島を自分達の新しい祖国にすることにした。

「流刑された魔導師達は、島を魔導の力によって開拓し、住み着き、そして子孫を残しました」

後から俺達が、口で言うのは簡単だが。

いくら魔法の力を使ったとはいえ、魔法は万能ではない。

昔からなおさら、今ほど魔導科学は発達していなかったはず。

彼らの開拓史は、苦難と困難、そして悲劇の連続だったはずだ。

元々不毛な土地だったのだから、なおさら。

祖国を追われ、多くの同胞を失いながら、それでも小さな島国に流刑された魔導師達は。

何とか生きようと、そして子供達の未来を繋ごうと、懸命に足掻き続けた。

「同時に、新しい祖国を二度と奪われないよう、魔導科学の発達に心血を注ぎました。そうして彼らはついに建国し…。…キルディリア魔王国が出来上がったのです」

という、シュニィの説明を。

「ふーん」

「何だかありきたりな話だね」

元暗殺者組は、つまんなそうに聞いていた。

おい。もうちょっと真面目に聞けよ。歴史の授業だぞ。

「そっか…。魔導師によって作られた国…。だから、キルディリア魔王国は親魔導師国家なんだね」

それに対して、天音は素直だな。

良い奴だよ。

「そのような歴史を持つからか、キルディリアは、国を守ることにおいては、どの国よりも徹底しています。魔導師軍の創設も、その一環です」

「ルーデュニア聖王国で言う、せーま騎士団みたいなもの?」

「はい。ですが…キルディリア魔導師軍は、聖魔騎士団とは違って、魔導師のみによって構成されている軍隊です」

聖魔騎士団には、魔導部隊の他にもら刀剣部隊や弓兵部隊などに分かれているが。

キルディリア魔導師軍には、その名の通り魔導師しかいない。

おまけに…俺の記憶が正しければ…。

「確かあの国は、魔導師は強制徴用でしたね」

俺が考えていたことを見透かしたように、イレースが言った。

…やっぱり。

「強制…って、もしかして…魔導師に生まれた人は、強制的に軍に入れられるってこと?」

「そうです」

「確か、兵役100年が国民の義務だったな」

「100年っ…!?」

天音、びっくり。

魔導師の寿命は、一般人のそれよりも遥かに長い。

…とはいえ、兵役100年はさすがに長過ぎやしないかと思う。

しかも、強制的。

ルーデュニア聖王国では、考えられないような制度だ。

それでも、キルディリア魔王国の悲しい国の成り立ちを考えれば、無理もないことなのかもしれない。

幾世代を経ても、キルディリアの民は、魔導師というだけで虐げられてきた過去を忘れてはいない。

決して、二度と自分達の命を、土地を、祖国を奪わせない為に。

その為に魔導師軍を組織し、国民にも兵役の義務を課しているのだ。

「そんなに長く…。…国民達は嫌がったりしないの?」

誰もが天音みたいに優しい性格だったら、兵役の義務なんてなかったんだろうけどな。

「国を守る為なんだ。嫌だなんて言ってられないだろ」

それに彼らは、生まれた時から兵役義務のある国で育ったのだ。

彼らにとって、魔導師軍に入るのは当たり前のこと。平和な国にいる俺達とは価値観が違う。

「そんな勝手な…。魔導師として生まれたからって、国によって徴用されるなんて…」

「…有り得ますよ。十二分に」

そう答えたのは、ずっと黙っていたナジュだった。