…一方、ようやくルーデュニア聖王国に戻ってきた、俺とシルナは。

全速力で、王都セレーナ…。そして、イーニシュフェルト魔導学院を目指した。

港町に辿り着いて、そこから最短距離を辿って、王都セレーナまで戻ってきた。

その頃には、もう時刻はすっかり夜だった。

本当は、港町で一泊してから、改めて翌日、王都セレーナに戻るべきだったのだろう。

だけど、じっとしていられなかった。

一分一秒でも早く、帰りたかった。

俺もシルナも同じ気持ちだった。

シルナなんて、さっきまで船酔いで参ってたはずなのに

ルーデュニア聖王国の土を踏んだ途端に。

居ても立っても居られなくなって、とにかく早く、学院に帰りたくて。

気づけば、ここまで辿り着いていた。

懐かしい校門が目に入るなり、シルナは感激の涙を浮かべていた。

「ただいま…。…ただいまっ!」

おいおい、まだ気が早いぞ。

でも、気持ちは分かる。とてもよく分かる。

「やっと帰ってきたよ、羽久。見て!私の学院」

「あぁ…そうだな」

「みんなー!ただいまー!」

シルナはにっこにこの満面笑みで、校門を潜り、イーニシュフェルト魔導学院の敷地内に足を踏み入れた。

…その瞬間。

「ひぇぇぇ!?」

ぐるんっ、とシルナの身体が回転した。

!?

バナナの皮で滑った人みたいに、盛大に半回転して。

すっ転ぶかと思いきや、シルナは、クモに捕らわれたかのように、両手両足をピンと伸ばして、宙吊りにされた。

…!?

「ひぇぇ!?何これ?何これ!?何これー!?」

何これ、の3乗。

でも、そう言いたいのはもっともだった。

俺だって、びっくりして声が出なかったから。

すると、次の瞬間。

気配もなく、音もなく。

黒い塊のようなものが、俺とシルナの前に迫った。

「ひっ…!?」

気がつくと、鋭く光る小太刀の刃が、俺の喉元に迫っていた。

あとほんの数センチ、小太刀を振りかぶっていたら。

その刃は、羊羹でも切るかのように、あっさりと俺の首をスライスしていただろう。

しかし、そうならなかったのは。

小太刀の持ち主が、俺に気づいてくれたからだった。

「…あれ?羽久だ」

「れっ…令月…!?」

名前を呼ばれて初めて、俺に小太刀を向けてきた黒い塊が。

黒装束に身を包んだ令月である、と気がついた。

…ってことは。

「シルナ!大丈夫か!?」

「ひぇ〜っ!助けてー!」

シルナは、同じく黒装束を身につけたすぐりの糸に、雁字搦めにされ。

少しでも動けば喉元を掻き切れるよう、細く、鋭く、透明な糸で首元をぐるぐる巻きにされていた。

…なぁ。

俺とシルナ、実家に帰ってきたと思ったら、元暗殺者二人に暗殺されるところだったんだが?