「…申し訳ございません、女王陛下…。この罰はいかようにも」

「ふん。貴様を罰したところで、今さらどうにもならぬわ。…それより」

「はい?」

「賊に隠し通路の情報を話したという、その王宮警備兵の処分じゃが」

可哀想に、ジュリスに脅された哀れな王城兵のことである。

「どのように処分しましょうか」

「そのような無能は即刻処刑…。…と、言いたいところじゃが、今は戦時。使えるものは何でも使ってやらねばな」

「おっしゃる通りです」

「アーリヤット戦線との最前線に送ってやれ。生きて帰すなよ。死ぬまで使うのじゃ」

「は」

もし、こんな重い、非情な処分が下ると分かっていたら。

ジュリスはきっと、あんな脅し方はしなかっただろう。

だが、ジュリスも、俺も…魔導師至上主義のキルディリア女王なら、魔導師相手には寛大な処分をするはずだと思い込んでいた。

それが仇になった。

「それから、サクメよ」

「はい」

「新たな作戦を命じる。この度の失態を取り返してみせよ」

「かしこまりました。…必ずや」

「うむ」

イシュメル女王は、ぱちんと扇を閉じた。

そして、サクメを含む側近を、全て王の間から追い出した。

一人、玉座に座ったイシュメル女王。

…その傍らに、ふわり、と降り立つ者がいた。

「おぉ。…おぬしか」

イシュメル女王は驚くことなく、その者に話しかけた。

彼女は、イシュメル女王を見つめながらこう言った。

「何だか、大変なことになったみたいね」

「気にするな。約束は必ず果たしてみせようぞ」

「そう。それなら良いけど。…期待してるわ」

そう言って、その者はフッ、と蝋燭の火を消すようにいなくなった。

一人残されたイシュメル女王は、口元を隠していた扇を、ぱちん、と閉じた。

そして、ぽつりとこう呟いた。

「…逃げられると思うな。イーニシュフェルトの聖賢者」