神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

キルディリア魔王国、ファニレス王宮の王の間にて。







「これは何の騒ぎじゃ。サクメよ」

「申し訳ありません、陛下…。賊が城に侵入したようです」

「賊、じゃと?」

自慢のなんちゃってクリスタル王宮に、不穏分子が紛れ込んだと聞き。

イシュメル女王は、露骨に顔をしかめた。

「どういうことじゃ。説明せよ」

「はい。どうやら、王宮の裏庭にある、古井戸の隠し通路を使われたようで」

「…」

「付近を捜索すると、生け垣に、夜間警備に当たっていた兵が一人、気絶していました。彼に事情を聞くと、男女の二人組が入り込んだと…」

「それで?」

「殺すと脅されて、隠し通路の場所を教えてしまったようです」

サクメがそう答えると、女王はますます眉間にシワを寄せた。

その口元は、いつもの扇によって隠されていたが。

女王が酷く不機嫌であることは、誰の目から見ても明らかだった。

女王が不機嫌になっているのを見て、周囲の側近達も青ざめた。

そんな中サクメだけは、何とか平静を装いつつ、報告を続けた。

「そこから客室に入り込み、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアを脱走させたようです」

「追跡は?」

「行っています。国境検問所をすべて封鎖し、出国予定だった全ての公共交通機関を止めたのですが…。…未だに、逃げた二人の行方は掴めていません」

実は、俺とシルナが出国した後、タッチの差で、キルディリアから出国する船は全部、止められていたのである。

もう少し遅れれば、俺達も危なかった。

最初、賊が侵入したのは、物盗り目的だと思われていた。

しかし、朝になって騒ぎが収まって、サクメがいつものように客室を訪ねると。

そこはもぬけの殻で、暖炉の隠し通路が使われた形跡が残されていた。

その時点で初めて、賊の目的が、俺とシルナを連れ去ることだと発覚したのだ。

慌てて、全ての国境検問所を押さえたが。

その時はもう、俺とシルナは、まんまと出国した後だった。

時既に遅し、だった訳だ。

「目撃情報なども募っていますが…。今のところ、目ぼしいものは何も…」

「…」

「…ですが、ご安心ください。陛下。必ずや、逃げた二人を捕まえてご覧に…」

「…無駄じゃな」

「え?」

本当はシディ・サクメも、俺達を捕まえる自信なんてなかったはずだ。

だが、イシュメル女王の機嫌取りの為に、必ず捕まえると豪語してみせたが。

それはむしろ、余計に女王の機嫌を損ねる発言となった。

「その賊とやらは恐らく、奴らの手の内の者じゃろう。この王宮を出さえすれば、いくらでも逃げられるし、いくらでも隠れられるわ」

「し、しかし…」

「奴はイーニシュフェルトの里の賢者ぞ。追跡など無駄じゃ。我らが手をこまねいている間に、とっくにこの国を出ておろうよ」

「…」

さすがのサクメも、最早言い返すことが出来なかった。

認めざるを得ない。今更だが。

監視が甘かった、と。