神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

誰でも分かることなのに。

イーニシュフェルト魔導学院は世界に一つしかないって、誰でも分かるはずなのに…。

「…結局、学院長先生に断られて、そのキルディリアの学校はどうなったんですか?」

と、天音が尋ねた。

「結局…別の人間が学院長になって、予定通り開校したらしいよ。今も変わらず、学校は運営されているらしい」

…俺も知ってる。

「どうして…。キルディリア魔王国は、一体どうしてそこまでして…。魔導師を育てようと」

「…恐らくその理由こそ、キルディリア魔王国がアーリヤット皇国に侵攻した理由でもあるのでしょう」

天音の質問に、シュニィが答えた。

そういえば、侵攻の理由はまだ聞いていなかった。

「戦争する口実なんて、何でも良いでしょ?資源確保、領土拡大…」

「単に相手が嫌いだから、って理由もるよねー」

元暗殺者組の意見は、非常に単純明快。

そこはもうちょっと…オブラートに包んでくれよ。

でも実際、世界の戦争の原因って、大元を辿ればそれなんだよな。

相手の持つ資源や領土が欲しいから。相手が気に入らないから。

そんな理由で…と思うけれど。

それは、ルーデュニア聖王国が平和だからそう言えることなのだ。

「キルディリア魔王国は、小さな島国だったはずでは?いよいよ大陸にまで進出する気になりましたか」

と、キルディリア魔王国の地形を知るイレース。

「え。そこ島国なの?」

「うん。そんなに大きくはなくて…」

シルナは、机の上に置いてあった要らない紙に、簡単な地図を書いた。

ルーデュニア聖王国がこっち側で、そんでアーリヤット皇国もこっち側で…。

それから海を挟んで、ぽつんと小石を落としたかのように、小さな島国がある。

それが、キルディリア魔王国である。

「地図にすると、こんな感じかな…」

「ふーん。ちっちゃいね」

「こんな小さな島国が、大国のアーリヤット皇国を敵に回すなんて…。どうしてそんなことを?」

確かに、この国土の差を比較してみると…キルディリア魔王国に勝ち目はないように見える。

…しかし…。

キルディリアには、アーリヤット皇国にはない大きな強みがあるのだ。

「…それは…」

「魔導師軍でしょ?」

シュニィの言葉を先取りするように、マシュリが言った。

…そう。その通りだ。

「…魔導師軍?」

「えぇ…そうです。キルディリア魔王国の国軍…魔導師軍が、アーリヤット皇国に攻め込んでいるのです」

…やっぱり、そういうことだったか。