ーーーーーー…ジュリスとベリクリーデが、ファニレス王宮の俺とシルナのもとに駆けつけてくれ。

ジュリスの案内で、俺とシルナは暖炉の中の隠し通路を使って、客室を抜け出した。

客室の中にこんな隠し通路があるなんて、全然気づかなかった。

誰も暖炉の中に潜り込もうとはしないだろう。

お陰で、俺達は気づかれることなく、井戸の底まで辿り着いた。

「ひぇっ…。い、井戸の底…」

シルナは井戸の底から空を見上げて、露骨にビビっていた。

そりゃまぁ、気持ちは分かるけどさ。

「ビビってる場合じゃないぞ。ここを登るんだ」

「こ、ここを…?」

「あぁ。ほら、ロープを掴んで」

ジュリスが、俺達を促した。

「俺は良いとして…。この高さは、老体のシルナにはキツいな…」

「酷い!私だってロープを登るくらいでき…で、でき…る、よ。…多分…」

自信なくしてんじゃん。

「あ…明日は筋肉痛かな…」

「…」

目が泳いでるぞ。

「…やれやれ、ったく」

ジュリスは呆れたようにそう言って、杖を取り出し、それをシルナに向けた。

え?

「yravitg」

ジュリスが、シルナに対して魔法をかけた。

見た目には、何も変化がないように見えるが…。

「おっ…!」

「どうだ。それで少しは軽くなっただろ」

ジュリスが何をしたのか分かった。

重力魔法である。

重力魔法で、シルナの身体を軽くしてくれたのだ。

これは一時的なものだが、これなら、運動不足の老体シルナでも、井戸から這い上がることくらいは出来るだろう。

ジュリス、ナイス。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど…。ありがとう、ジュリス君…!」

「そんなことは良いから。気をつけて登れよ」

「う、うん」

そう言ってくれる、気遣いは嬉しいが。

「ジュリス、ベリクリーデ、お前達はどうするんだ?」

俺とシルナを逃してくれようとしてくれてるのは、よく分かる。感謝もしてる。

だけど俺はそれよりも、この後のジュリス達の身の振り方が気になった。

俺達だけ逃げる訳にはいかないだろう。…どう考えても。

「お前達も一緒に来るんだろ?」

「…いや。俺達は、まだ行けない」

ジュリスは首を横に振って、そう言った。

…やっぱり。

そんなこと言い出すんじゃないかと思った。