ーーーーー…時は、少し遡る。




俺とベリーシュは、例の新聞記事から得た情報で。

シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアが、今ファニレス王宮に身を寄せていることを知った。

俺達は、この新聞記事の真偽を確かめる為。

半ば祈るような思いで、ファニレス王宮に潜入することにした。

…我ながら、随分大胆な選択をしたものだ。

不法侵入しておいて、こう言うのもなんだが。

正直、悪いことをしている自覚はなかった。

この国が非魔導師達にしていることを思えば、このくらい可愛いもんだろ。

ファニレス王宮の場所を探す必要はなかった。

クリスタルで出来たその王宮は、探すまでもなく、王都ファニレスでもっとも大きな、立派な建物として君臨していた。

…しかし。

少しずつ王宮に近づくにつれ、俺はそれが見てくれだけのパチモンであることに気づいた。

「…この王宮、何だか奇妙だね」

どうやら、ベリーシュも気づいたようだ。

さすがは聡いベリーシュだ。

「凄く薄っぺらな感じがする。見た目は豪華だけど…」

「あぁ…。薄っぺらとは、なかなか良い例えだ」

「これ、もしかして幻覚魔法…?」

…その通り。

非魔導師には決して分からないだろう。

それどころか、並みの魔導師でも気づかないんじゃないか。

キルディリアの上級魔導師様とやらだって、気づくかどうか。

それくらい精密で、高度な幻覚魔法が使われている。

俺だって、半分は勘だ。長年魔導師やってきた勘。

なんか怪しい気がするな、と思ってよく見てみたら、実は…。みたいな。

王宮全体を幻覚魔法で覆って、まるで水晶で出来た豪華な王宮…の、ように見せているってだけで。

その実態は、まったく別のものだ。

…見栄っ張りにも程がある。

見てくれを取り繕うより、もっと先にやることがあるだろ。

…それはさておき。

「さて…。じゃ、潜入するか」

「でも、どうするの?」

「そうだな…。さすがに、キルディリアの上級魔導師様とは、あまりやり合いたくないが…」

現在の時刻は、午後8時を回っている。

外はすっかり暗くなっている。

そのお陰で、王宮の周りを俺達が彷徨いていても、あまり目立たない。

幸いなことに、この国の連中と来たら、戦時下にも関わらず、警戒心が薄い。

自分達は絶対に優勢だと信じ切っている。

…その驕りが仇となるんだってことを、教えてやろうじゃないか。 

「…よし、ベリーシュ。裏口から回ろう」

王宮の周囲には、水晶で出来た高い壁が覆っている。

この壁を越えて、中に侵入するのは容易ではない。

…って、思うだろ?

これ、全部見掛け倒しだ。

侵入なんて、とても不可能に見えるけど。

これはただの幻覚魔法に過ぎないのだと、分かってしまえばあとは簡単だ。

実際は、ロープでも使えば、比較的楽に乗り越えられそうなくらい低い、コンクリートの塀が覆っているだけ。

これなら簡単に乗り越えられる。

問題は、その塀を乗り越えた後だ。