神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

言うに事欠いて、シルナに「ルーデュニア聖王国を捨てろ」とは。

よくも言えたもんだ。そんな…ふざけたこと。

「成程…。確かに、いくら校舎を真似ても、学院長がいなかったら、イーニシュフェルト魔導学院じゃないもんね」

「学院長せんせーを自分の国に呼んだのも、最初からそれが目的だったのかもねー」

相変わらず、冷静に話を受け止める令月とすぐり。

その通りだ。

「はい…。キルディリア魔王国の目的は、最初からそれだったんだと思います。学院長先生を、自国に引き入れようと…」

「ふん。客寄せパンダを自国の動物園に無償貸与してもらおうなど、図々しい話ですね」

「…イレース…」

言いたいことは分かるが、シルナが傷つくから。な?シルナが。

でもまぁ、彼らがやりたかったのはそういうことだ。

新しい動物園を…じゃなくて、新しい学校を作ったから。

そこの学院長に、パンダを、いやシルナを据えたかった。

そうしてこそ、その学校は本物の「イーニシュフェルト魔導学院」になる。

「どうして、そこまでして…。学院長が欲しかったの、それともイーニシュフェルト魔導学院が欲しかったの?」

マシュリが尋ねた。

「…多分、どちらもだと思います。環境の整った校舎と学院長先生、どちらが欠けても、それは『イーニシュフェルト魔導学院』足り得ないと判断したのでしょう」

と、シュニィ。

…そうだな。

「当然、学院長先生はお断りしたそうなのですが…。それでも、随分としつこく食い下がられ…」

「それで、帰国まで二週間もかかったってことか…」

「最後は、半ば逃げるようにして帰ってきたって話だ」

引き止められるのを振り切って、強引に帰ってきたらしい。

出掛けた時はあんなにわくわくしてたのに、帰ってきた時のシルナは、そりゃぐったりしてたよ。

さながら冥界帰りだった。

「…馬鹿馬鹿しい」

それらの話を聞いて、イレースは心底軽蔑したように吐き捨てた。

「世界に同じ学院は二つとありません。同じ名前でも、同じ偏差値だったとしても、学校によって、様々な違いがあるのは当たり前。…そして、それこそがそれぞれの学院の長所なのです」

その通りだ。よく言った、イレース。

俺もそう思う。

学校なんて、何処も違っていて当たり前なのだ。

生徒達は、その微妙な「違い」に魅力を感じるのだから。

様々な学校で、それぞれが様々な学びを得て、大人になって。

そして、そんな様々な素晴らしい知恵と知識を、社会の為に活かす。

そうしてこそ、社会は円滑に回っていくのだ。

…それなのに。

いくらイーニシュフェルト魔導学院が、魔導師養成校として優秀だとしても。

同じ学校は、二つとない。

キルディリア側も、それが分かっているから、学院長にシルナを据えようとしたのだろう。

あの手この手で取り入れようと、必死だっただぞ。

まずは多額の報酬。それにキルディリア国内での地位。

色々な良い条件を提示されたが、シルナは頑なに首を横に振ったらしい。

…そうだよな。

シルナの作ったイーニシュフェルト魔導学院は、世界でここ、一つだけなのだから。