ーーーーー…一方その頃、俺とシルナはというと。

ジュリスとベリクリーデが、まさかキルディリア魔王国に来ているということも知らず。

相変わらず、二人してファニレス王宮の客室に、半ば軟禁されていた。







「…。…はぁ〜…」

「…」

シルナは溜め息をついて、客室の窓から外を眺めていた。

客室の窓からは、王宮の中庭がよく見える。

ファニレス王宮の中庭は、それはそれは美しい庭園だった。

大きな噴水が、様々な美しい形を作っている。

島国特有のカラフルで大きな花々が、あちこちに咲き乱れ。

一分の隙もなく刈り込まれた芝生。よく手入れされた、幻想的な小バラのアーチ。

中庭の中央には、大きめのガゼボがあって。

そこに腰掛けて、中庭を見渡せるようになっている。

あそこでゆっくり紅茶でも飲んだら、それは幻想的な、優雅な気分になれることだろう。

俺が頼めば、多分、すぐにでもそれは叶う。

一般人では、到底敵わない贅沢が出来るのだ。

それは分かっている。

…だけど、とてもじゃないけど俺は、美しい中庭の景色を眺めながらくつろぐ、なんてことは出来なかった。

そして、それはシルナも同じだ。

ここ最近のシルナは、ちっともチョコレートを食べていない。

チョコレートどころか、あらゆるお菓子に手が伸びないのだ。

信じられるか?

あのシルナが、自らの意思で砂糖断ちしてるんだぞ。

ルーデュニア聖王国にいた頃だったら、絶対に有り得なかった。

イレースにこのことを教えたら、「ついに、パンダから真人間に戻りましたか」とでも皮肉を言われるところなんだろうな。

…今ばかりは、イレースの皮肉さえも懐かしい。

今ここに、彼らが。

イーニシュフェルト魔導学院の仲間達がいてくれたらな。

きっと、何も恐れることなんてなかっただろうに。

せめて、シルナが傍に居てくれて良かった。

これでシルナまで居なかったら、俺はとっくに発狂していたことだろう。

「…イレースちゃん達、元気かなぁ…」

「…」

シルナは窓の外を眺めながら、ポツリとそう呟いた。

「…シルナ…」

「…あ、ごめん。羽久…」 

つい本音が出てしまったことに、シルナは謝ったが。

…別に気にしなくて良いぞ。

俺も、同じことを考えていたところだから。

…せめて、ルーデュニア聖王国に残された彼らが、平穏に過ごしていることを祈るばかりである。