だって、考えてもみろよ。

有り得ないことがいくつも起き過ぎている。

あの二人が、だぞ?

誰よりも、ルーデュニア聖王国に深く、強く根付いて生きてきた奴らが。

特にシルナ・エインリーは、ルーデュニア聖王国建国時から、ずっとあの国で暮らしてきた。

自分と、自分の愛する羽久・グラスフィアが安全に生きていけるように、自らの手で国の基盤を作り。

ルーデュニア聖王国が数々の危機を迎える度に、直接、間接的に手を尽くして、あの国を守ってきた。

すべては、自分と羽久の居場所を守る為に。

その中には、とても常人には理解出来ない、苦労と困難があったことだろう。

だけどその甲斐あって、今、ルーデュニア聖王国は…そして、彼らの家とも言える、イーニシュフェルト魔導学院は。

ルーデュニア聖王国の中で、非常に盤石な、確固たる地位を作り上げている。

これ以上ないほど、完璧に。

あの場所こそ、シルナと羽久の家であり、居場所でもある。

…そんな大切な居場所を、自ら捨てるような真似をするだろうか?

有り得ない、としか言いようがない。

二人にとって大切な家を、故郷を、そんな簡単に捨てるはずがない。

二人共、あの国に守るべきものがあるはずなのに。

ましてや、その動機は「戦争に賛同し、協力する為」だなんて。

二重に有り得ないだろ。

シルナ・エインリーは基本的に、平和主義者である。

羽久を守る為にも、争いの火種は徹底的に消すのが彼のやり方。

それなのに、他国同士の戦争に、自ら首を突っ込むなんて。

そりゃ俺達だって、ついこの間まで、アーリヤット皇国とはバチバチに睨み合ってたさ。

だけどあの時シルナ・エインリーは、全面戦争を避け、決闘によって事を解決することを望んだ。

それだけ、彼は戦争という手段を嫌っている。

人の命も、金も、有限な財産のすべてを無意味に浪費する行為を。

そんな彼が、戦争に加担する為に。

ましてや自分の手で作り上げたルーデュニア聖王国を捨ててまで、キルディリア魔王国にやって来るなんて。

…うん。何度考えても、やっぱり有り得ない。

有り得ないとしか言いようがない。

…だけど、この国は、その「有り得ないこと」が実際に起こる国だ。

俺はそのことを、これまでの体験で嫌と言うほど、嫌と言うほど思い知った。

…つまり。

「…脅されたか、あるいはこれも、あいつらの策なのか…」

「この記事そのものが嘘、っていう可能性もあるね」

「あぁ」

とにかく、あいつらが心から望んで、キルディリア魔王国に亡命したという話は嘘だ。

それだけは絶対に有り得ない。

何か事情があるのだ。…のっぴきならない事情が。

…確かめないと。

「…ベリーシュ。悪いんだが、クロティルダを探す前に…」

「分かってる。会いに行くんでしょ?二人に。私も手伝うよ」

…話が早くて助かるよ。ベリーシュ。

こうなったら、正面突破あるのみ。