神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「え…。な、何それ…。校舎まで同じって…」

驚愕に目を見開く天音。

「うん…。…本当に、そっくりそのまま一緒だったんだ…。…初めて見た時は、本当にびっくりしたよ」

シルナは当時を思い出しながら答え。

それから、自分の机の引き出しを漁った。

「ちょっと待ってね…。確か、あの時とらった資料が…」

…まだ取ってあったとは。

シルナにとっては、よっぽど当時の出来事が衝撃的だったんだろうな。

「…えぇと、こっちがチョコで…こっちもチョコで…その下に…。…あれ?」

…ただ、その資料がなかなか見つからないようだが。

「おい、早くしろよ。話の流れが途切れるだろ」

「ちょ、ちょっと待って。今…。…あっ!〇〇パーラーのドライフルーツチョコ、こんなところに入れてたんだ…!」

チョコレートを発掘するな。

「…この自堕落パンダ…」

ほらぁ。イレースのこめかみの血管がピキピキしちゃってるじゃないか。

本格的にイレースがブチギレる前に、早く見つけてくれ。

「だ、大丈夫だよ。捨ててないはずだから…。…あっ!ほら、あった」

ようやく見つけたか。

長い間机の引き出しの奥で眠っていたらしく、紙がパリパリになってしまっている上に。

端っこの方に、チョコレートだと思われる茶色のシミが出来ており。

その保存状態の悪さに、イレースは再びイラつきを露わにしていたが。

かろうじて、肝心な箇所はまだ見える、読める状態だったので、シルナは何とか難を逃れた。

「ほら、これ…。あの時もらった、キルディリア魔王国国立魔導師養成所のパンフレット」

みんなの前に提示した、そのパンフレットの表紙に。

新しく建てられたばかりの、ピカピカの校舎の写真が、でかでかと掲載されていた。

そしてその校舎は、俺達にとって非常に見覚えがあるものだった。

「…!本当に…イーニシュフェルト魔導学院にそっくり…」

「へぇ。ウチの学院の写真を、そのまま無断転載したみたいですね」

天音とナジュが、それぞれそう言ったが。

「いや、でも周囲に生えている木々の種類が違うよ」

「校舎を取り囲んでる柵の高さも、びみょーにこっちの方が高いね」

令月とすぐりは、この薄汚れた古い写真からも、特徴を見つけ出していた。…さすが。

そう。それらの微妙な違いがあるから。

まだかろうじて、我がイーニシュフェルト魔導学院とは違う学校だ、と判別出来るのだ。

「校舎を模倣し、カリキュラムまで模倣して…イーニシュフェルト魔導学院の劣化コピーでもするつもりですか」

「そんな…劣化コピーなんて。きっとイーニシュフェルト魔導学院が優秀な学校だって聞いて、参考にしようとしたんだよ」

じろりと睨むイレースに、天音は持ち前の、人の良い意見を口にした。

…そうだったら良かったんだけどな。

「いいや、天音君…。イレースちゃんが正解だよ」

シルナは軽く頭を振って、そう言った。

「えっ…」

「キルディリア魔王国の目的は、国内に『イーニシュフェルト魔導学院を作ること』だったんだ。…私を呼んだのも、その為だったんだよ」

「…」

あまりの突拍子もない計画に、絶句する天音。

その気持ちはよく分かる。

当時、帰ってきたシルナからその話を聞かされた時。

間違いなく、俺も同じ顔をしていたはずだ。