神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「魔導師のお客様だけでしたら、何処でも宿泊出来るんですけど…。青カードのお客様はねぇ…」

「…」

「意地を張らずに、別々に宿泊した方が良いんじゃないですか?」

…あのな。

俺は何も、意地を張ってる訳じゃない。

何で、一緒に旅行に来た相手と、別々のホテルに宿泊しなきゃいけないんだよ?

有り得ないだろ、そんなこと。

それなのにこの国では、その「有り得ないこと」が、当たり前のようにまかり通った。

…そうと知っていれば、是が非でもベリクリーデに、オレンジ色の証明書を取得させたものを。

「…何処でも良い。一緒に泊まれる場所はないのか?」

「うーん…。ちょっと難しいですねぇ。ウチは青カードの客専用なんで…。魔導師のお客様はちょっと…」

「じゃ、魔導師も、非魔導師も泊まれる場所は何処なんだ?」

「いやぁ、それはまず無理だと思いますよ。魔導師なら誰だって、『青カード』なんかと同じ屋根の下に泊まりたくないでしょう?いくら部屋が違ってても」

…何笑いながら言ってんだ?あんた。

平ッ然と…差別発言を口にする。

人は生まれながらにして平等な生き物なんだから、差別しちゃいけないって学校で習わなかったのか?

キルディリア魔王国の道徳の教科書、1回読んでみたい。

「別に良いじゃないですか?別々のホテルに宿泊しても。翌日、また待ち合わせして合流すれば」

「あのなぁ、そういう問題じゃ…」

「だって、このままうろうろ探してたって、見つかりませんよ?魔導師のお客様と青カードが一緒に泊まれるホテルなんて」

「…」

「仮にあったとしても、そういうホテルは魔導師のお客様が優先なので、満室だと青カードは部屋から追い出される可能性もありますからね。おすすめ出来ませんねぇ」

まったくもって、意味不明。

腹が立つから、こいつ、殴りつけてやろうかと思った。

…だけど。

「…ジュリス、私、ここに泊まる」

ずっと黙って、侮蔑に耐え忍んでいたベリクリーデが。

ついに口を開いて、あろうことかそう言った。

「ベリクリーデ…!」

「…別々に泊まるしかないんでしょ?」

「…」

ベリクリーデは常日頃、突拍子もないことばっかり言ったりしたりするし、言動も子供っぽい。

だけど、我儘ではない。

駄目だと言われれば、素直に受け入れる。

…だからって、そんな寂しそうな顔して。

「明日になったら会えるんでしょ…?…だったら、我慢する」

「…ベリクリーデ…。…良いのか?」

「だって、そうするしかないって…」

「…」

ベリクリーデの言う通りだった。

ここでゴネても、何にもならない。この国の道理を曲げることは出来ない。

俺よりもベリクリーデの方が、よっぽど聞き分けが良い…。

「…分かった。じゃあ明日、一番に迎えに来るから」

「うん」

「それまで一人で…大丈夫か?耐えられるか?」

「…頑張る…」

頼りない返事ではあったが、ベリクリーデは確かに頷いた。

…何だろう。

ちっちゃい子を、初めてお泊まり保育に送り出す親になった気分。