神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

実際、ホテルはたくさんあった。

10メートル先にホテル。その15メートル向かい側にまたホテル。

あちこちにホテルが建っていて、俺は片っ端から、それらのホテルに入っては、空室がないかどうか尋ねたのだが…。

「…あのー…。2人なんですけど、部屋、空いてます?」

これで何軒目だろうか。

スーツケースを引き摺りながら、俺はホテルのロビーに足を踏み入れた。

そこのフロントで、今度こそ空き室がないか聞いてみたところ…。

「はい。魔導師証明書はお持ちですか?」

「え?あぁ…。これです」

俺は、さっきもらったばかりのオレンジ色のカードを見せた。

「では、お連れ様は?」

「ベリクリーデ」

「ん」

ベリクリーデは、首に下げた青色のカードを掲げて見せた。

するとその瞬間、フロント係は眉をひそめ。

「…申し訳ありませんが、本日はもう満室です」

素っ気なく、そう言った。

「あ、そうですか…。…どうしても無理ですか?」

「えぇ、無理です」

「…ふーん…」

仕方がない。ここも駄目か。

俺はそれ以上食い下がることはせず、スーツケースを持って、渋々ホテルを出た。

ベリクリーデは、そんな俺の後ろを追ってきた。

「…ジュリス…」

「…ごめんな、なかなか部屋、見つけられなくて」

「ううん」

ベリクリーデは首を横に振った。

…さすがにおかしいんじゃないかって、思い始めてきた。

さっきのホテルも、その前に訪ねたホテルも、その前も、満室だからって言われて追い出されたが。

…本当に満室なのか?

さっきのホテルさ、俺が「部屋は空いてるか」と聞いた時。

まず、魔導師証明書の提示を求めたよな?

で、俺とベリクリーデの証明書をそれぞれ確かめてから、「満室です」って断ってきた…。

これっておかしくないか?

もし本当に満室なんだったら、「部屋は空いてるか」って聞かれた時に、すぐ「満室です」って答えるのでは?

何で、いちいち先に魔導師証明書の提示を求めるんだ?

さっきのホテルだけじゃなくて、その前も、その前のホテルもそうだったのだ。

まるで、証明書を見てから返事をしているような…。

いや、まさかそんな…。

「…」

「…?ジュリス、どうしたの?」

「…いや…」

…よし。それじゃはっきりさせようじゃないか。

俺は周囲をきょろきょろと見渡し。

また別のホテルを見つけて、今度はそこで実験してみることにした。

フロントに近づくと、にこやかな若い男性ホテルマンが迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました」

「二人なんだけど、部屋はまだあるか?」

「かしこまりました。…では、まず魔導師証明書をお見せいただけますか」

ほら、また。

部屋に空きがあるかどうかより先に、証明書を見せろと言ってきた。

まるで、マニュアルでそう決まっているかのように。