神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

言っておくが、俺も勿論、ベリクリーデだって、れっきとした魔導師である。

疑ってかかるなら、ベリクリーデにも魔法を使ってもらって、証明してやろうじゃないか…。

…と、言いたいところだが。

「…いや、その…。…こいつは…」

…やめておいた方が良いと思うんだ。

ベリクリーデは確かに魔導師だ。だが、その魔法の使い方は、非常に特殊。

こいつの魔法は、大雑把にも程がある。

力加減というものが全く出来ないのだ。

ベリクリーデに「ちょっとだけ」とか、「軽く」という概念は通用しない。

こいつに魔法を使わせてみろ。「どっかーん」とか言って、建物ごと吹き飛ばすぞ。

外国の国境検問所を消し飛ばすなんて…。…考えるだけで恐ろしい。

ベリクリーデに魔法を使わせるなんてとんでもない。

しかし。

「うん、分かったー。じゃあどっかーんと、」

「ちょ、待てベリクリーデ!」

「ほぇ?」

ほら見ろ。案の定やろうとしてる。

それに今は、だいぶマシになったとはいえ、ベリクリーデは体調が悪い。

ただでさえ出来ない力加減が、余計に出来なくなっているはず。

「…何ですか。出来ないんですか?」

なかなか魔法を見せようとしないベリクリーデに、女性審査官は疑わしげな表情を向けた。

…どうしよう。

「あの…ちなみに、魔法を見せられなかったら…どうなるんだ?」

俺は、恐る恐る尋ねてみた。

「魔導師であることが証明されませんので、魔導師証明書に、『非魔導師』と記入することになります」

「…ふーん…」

それだけか。

それだけなら、別に良いかもしれない、と思った。

少なくとも、この国境検問所を吹っ飛ばすより遥かにマシだろう。

それに、俺には他の思惑もあった。

…ベリクリーデは、非常に特殊な魔導師だ。力加減が出来ないことを別にしても。

彼女の中には、神…あの聖神ルデスが宿っている。

ルーデュニア聖王国では、既に公然の事実だから…普段は忘れているが。

このキルディリアという魔導師大国で、ベリクリーデの特殊な正体を、万が一知られてしまったら。

…人探しどころじゃなくなる。

それどころか、ベリクリーデの身の安全さえ保証出来ない状況になりかねないのだ。

だったらいっそ、非魔導師だということで押し通した方が、むしろ安全なのではないだろうか。

どうせ、不器用で、しかも体調不良のベリクリーデには。

この場で魔法を使って、魔導師であることを証明するのは難しいんだし。

これ以上ここで押し問答をするより、いっそ非魔導師ってことで、さっさと入国させてもらった方が良い気がする。

で、さっさとホテルに入って休もう。

俺はこの時、何も分かっていなかったのだ。

証明書に「非魔導師」と書かれるだけで、他には何も影響がないと思い込んでいた。

それが大きな間違いだと知っていたら、何としても、この場で必死にゴネまくったに違いない。

この国で、証明書に非魔導師と記入されることが、どのような影響を及ぼすのか。

俺は、正しく知っておくべきだったのに。