神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ベリクリーデがあまりにへろへろなので、その場で30分くらい落ち着かせて。

ついでに、携行していた酔い止め薬を飲ませた。

もっと早く飲ませれば良かった。

出来れば、すぐに横になれる場所に連れて行ってやりたかった。

だけど、まだこの国に来たばかりで、ホテルの手配どころか入国審査すら受けてない。

「…ふぇ〜…」

「…大丈夫か?」

即効性の酔い止め薬、持ってきておいて良かった。

薬を飲んだお陰か、それとも少し休んだお陰か。

ちょっと、顔色がマシになってきたな。

まぁ、陸地に着いたからかもしれないけど。

治るなら何でも良いよ。

「動けるか?まずは入国審査を受けないと…」

「…にゅーこく、しんさ?」

「パスポートを見せて、この国に来ましたよ、入っても良いですよ、っていう許可をもらうんだよ」

そうしなきゃ入れないからな。

「…でも冥界に遊びに行った時は、そんなことしなかったよ?」

「…そりゃ、冥界だからだよ…」

パスポートねーから。冥界。

あと、遊びに行くようなところじゃねーから。やめなさい。

「すぐに済むはずだよ。行こう。終わったらすぐホテルを探してやるから」

今日はもう、一日休んでた方が良いよ。

だいぶ顔色が良くなったとはいえ…。

それでなくても、慣れない船旅で疲れてるだろうし。

「だけど、すぐに…クロティルダを…」

「良いから。クロティルダだって、一日くらい待ってくれるよ」

具合を悪くしてまで探してもらいたい、なんてあいつも思ってないよ。きっと。

「さぁ、行こう。入国審査」

「うん」

よし。俺達はパスポートを手に、入国カウンターに向かった。

他の乗船客は、とっくに入国審査を済ませていたらしく。

遅れてやって来た俺達に、審査官は少し驚いたようだった。

「あ、すみません…。どうも」

「ようこそ、キルディリア魔王国へ」

それでも、その女性入国審査官は、人の良さそうな笑顔で俺達を迎えてくれた。

実はこの女性入国審査官は、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアを担当したのと、同じ人物だったのだが。

俺は知る由もない。

「遅くなってすみません…」

「いえいえ、良いんですよ。お二人分ですね」

と言って、俺とベリクリーデのパスポートを受け取った。
 
しかし、そのパスポートにはほとんど目を通さず。

その代わり、俺達に貴重な質問を投げかけた。

「失礼ですが、魔導師証明書はお持ちですか?」

「…は?」

「魔導師証明書です」

魔導師…。…証明書?何だそれは?

皮肉にも、俺とベリクリーデも、シルナ・エインリー達と同じように。

この国では、身分証明書よりもパスポートも遥かに大事な魔導師証明書のことを
全く知らなかったのである。

「えぇと…。すみません、ちょっと何言ってるか…」

「…お持ちじゃないんですか?」

えっ。

…さっきまで、あんなににこやかな笑みを浮かべていたのに。

あっという間に、その女性入国審査官から笑顔が消えた。

代わりに現れたのは、俺達に対する明らかな嫌悪感だった。