神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「じゃあ、お前…!何で言わなかったんだ?俺、船酔いかってお前に聞いたろ…!?」

強がってたのか。そうなのか?

それとも、俺がへろへろだったから、自分もへろへろになったら不味いと思って。

それで、わざと元気なフリをしてたのか…!?

だとしたら、俺は自分で自分をぶん殴るぞ。

…しかし。

「…??だって、酔っ払ってないもん」

「…」

噛み合わない会話。

しかし、俺は気がついた。ベリクリーデと長年一緒に過ごしたからこそ気づく、勘である。

…ベリクリーデ、お前。さては船酔いを知らないな?

船「酔い」って言葉を聞いて、「酔う=お酒を飲むこと」だと誤解して。

「自分はお酒を飲んでない=酔ってない!」と思い込み。

それで、俺が船酔いかと聞いても、酔ってないと答えたのだ。

でも、本当はしっかり船酔いだった。

…なんたる馬鹿。

「…あのなベリクリーデ。船酔いって、別に酒飲んで酔っ払ってる訳じゃないから」

「えっ」

「船の中で揺れると、酒を飲んで酔っ払ったみたいに気持ち悪くなったり、足元がふらついたりするだろ?だから、船酔いって言うんだ」

「へぇ〜」

今初めて知りました、って感じだな。

…おそっ…。

そのくらい、一般常識として知っておいて欲しかったよ。

なんてことだ。

ベリクリーデはずっと、無自覚に船酔いを我慢し続けていたのだ。

そうと知っていれば、ベッドに寝かせたのに。

我慢し続けたその反動が、船を降りた瞬間に襲ってきたのだろう。

ベリクリーデは青ざめた顔で、足元も覚束ないようだった。

あぁ、もう…!

「痩せ我慢するんじゃねーよ、この馬鹿…!」

「…ほぇ〜…。ぐるぐる〜…」

駄目だ。目が回っちゃってる。

「しっかりしろって。ほら、手ぇ繋いで」

「らいじょうぶだよ〜」

全然大丈夫じゃないっての。呂律回ってないし。

「スーツケースは俺が持つから。肩を貸せ」

「私は平気だよ?」

「何処がだよ」

「だって、ジュリスも具合、悪いでしょ?」

はぁ?

そりゃ…俺もさっきまで船酔いに悩まされていたけど。

でも、ようやく陸地に着いて、かなりマシになったし。

それに何より、足元さえ覚束ないベリクリーデよりは遥かに軽症。

どころか、ベリクリーデの酷い有り様を見て、気分が悪いのが吹っ飛んだよ。

「だって、ほら、ジュリスの顔がいつの間にか銀ピカに…」

「それは目の錯覚だ…!」

重症だよ、馬鹿。