神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

それじゃあ行って来るね〜、と手を振り、ご機嫌で出掛けていった当時のシルナ。

当初は、旅行は一週間の予定だった。

しかしシルナは、一週間が過ぎても帰ってこなかった。

とはいえ、ミナミノ共和国に閉じ込められたフユリ様と違って、一応連絡は取れていた。

旅行が長引く旨をシルナの口から聞かされて、連絡が取れたことを喜ぶ反面。

旅行が長引くことに、不安を感じていたのだが…。

結局シルナは、帰国予定日から更に一週間経って。

出発してから、実に二週間の月日を経て。

ようやく、ルーデュニア聖王国に帰国した。

帰ってきたシルナは、ぐったりと疲れ果てていた。






…出掛ける前は、あんなに楽しそうだったのに。

帰ってきた時のシルナは、酷く疲れて、ぐったりしているようだった。

俺は、そのことに衝撃を受けた。

「シルナ…。…大丈夫か?」

思わず、俺はそう尋ねていた。

「あぁ…うん。…とりあえず、チョコを食べよう…」

疲労を回復するにはこれが一番、とばかりに。

帰ってきたシルナがまず最初にしたことは、チョコレートを齧ることだった。

この辺は、今も昔も変わってないな。シルナのまんまだ。

…って、呑気にチョコ食ってる場合じゃないだろ。

「一体どうしたんだ?何でこんなに遅くなって…」

「ごめんね…。…学院の方、大丈夫だった?」

「…問題ねぇよ」

シルナの留守くらい、一人で預かれなくてどうする。

シュニィを始め、何人かの生徒には、「学院長先生はまだ帰ってこないんですか?」と心配そうに聞かれたが。

俺は自分の不安を隠しながら、「すぐ帰ってくるから。大丈夫だよ」と笑顔で答えるよう努めていた。

我ながら強がっていたものだ。

本当は、自分が一番心配していた癖に。

「もむもむ…。チョコうま〜」

「チョコは良いから…。シルナ。キルディリアで何があったか早く…」

「あっ、そうだ。お土産にキルディリア産のチョコクッキーを買って、」

「…」

「ちょ、無言で拳を振り上げるのやめて!」

いや、ごめんな。

あまりの呑気っぷりに、なんか腹が立ってきて。

一発ぶん殴ったら、重要な話を始めてくれるかと思ってな。

「話す。ちゃんと話すから」

「じゃあさっさと言えよ。…キルディリア魔王国で、何があったんだ?」

「…それは…。…そうだな…」

「まさか、危険な目に遭ったんじゃないだろうな?」

俺が一番心配していたのは、それだった。

俺が傍にいない間に、シルナの身に危機があったんじゃないかって…。

もしそんなことになったら、俺は自分で自分が許せなかっただろう。

…しかし。

「いや…。危険ではなかったよ」

「…本当に?」

「うん、本当に。危険な思いはしていない。一度も」

シルナははっきりとそう答えた。

…嘘をついている訳ではなさそうだな。

…良かった…。

それを聞けただけでも、ひとまず安心だ。