神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

大変だったのは、船旅の道中である。

「あ〜…。…酔う…」

折角、定期船にしてはそこそこ綺麗な客室を充てがわれて、良かったと思っていたのに。

船旅が始まってしばらくすると、とんでもなく揺れる揺れる。

ルーデュニア聖王国近海は、これ以上なく穏やかな海だったのだが。

少しずつキルディリア魔王国の航路に近づいてくると、突然、海の状態が悪化し始めた。

波は高いわ風も強いわ、とても船旅には不向きな天候。

さすがの俺も、ちょっと不安になってきたが。

それでも、他の乗船客や、船内の職員達の話を聞くところによると。

キルディリア魔王国近海では、いつもこんな天気らしい。

成程。それで、この揺れなのに誰も危機感を抱いてないんだな…。

あー、気持ち悪い。

俺は船室のベッドで横になって、ひたすら船酔いに耐えていた。

その間、ベリクリーデはと言うと。

「うーみーはーひろいーなー♪おおきいーなー♪」

船室のちっちゃい窓から、高い波を眺めながら。

「つーきーがーしずむーし〜♪ひがのーぼーるー♪」

「…ベリクリーデ…。…それは逆だ…」

「ほぇ?」

…もう駄目だ。ツッコむ気力も起きない。

俺は、ぐったりと枕に頭を預けた。

「…ジュリス、大丈夫?」

ベリクリーデが、心配そうにベッドに寄ってきた。

「…具合悪いの?…子守唄、歌ってあげようか?」

「いや…。…いいよ…」

「ジュリスーはーよいこーだー♪ねんねーしーなー♪」

「…いいって…」

気持ちだけ、な。気持ちだけ受け取っておくよ。

別に歌が下手な訳じゃないけど、お前の間の抜けた歌声を聴いていると、気が抜ける。

…それより。

「…ベリクリーデ、お前は船酔い、大丈夫なのか?」

「ふぇ?」

「気分悪くないのか。この揺れなのに…」

「…??酔っ払ってないよ?」

あ、そう…。

羨ましいことに、ベリクリーデは船酔いしてないらしい。

馬鹿は風邪引かないって言うが、あれは船酔いにも適応されるらしいな。

「右にゆらゆら〜。左にゆらゆら〜」

むしろ、この揺れを楽しんでいるかのよう。

「ふわふわするねー」

「…そうだな…」

畜生…。羨ましい。




…俺はこの時、自分の船酔いに耐えるのが必死で。

ベリクリーデの「不調」に、まったく気づかなかったのである。